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SS-2-3『兄弟 』

眠っている桜人の隣にそっと体を滑らせて、千隼は息を潜めた。 千隼にとって、強く自分を求めてくる桜人は守ってやらなければならない存在。 今日はそれを正当化する理由が出来た。 …僕の…おとうと… …僕は…おにいちゃん…。 何だか甘酸っぱくて擽ったい。 うっとりする言葉の響き。 布団の上にはみ出た小さな手に、千隼は指を絡ませた。 「……」 「桜人、僕はどこにも行かないよ?」 「……」 次の日も桜人は千隼にべったりとくっつき、片時も離れようとしなかった。 どこに行くにも、何をするにも、身体の一部は必ず千隼にくっ付ける。 何がそんなに不安で、何に心を許しているのか。 まだ幼い千隼には分からなかった。 「桜人、今日は出かける日だから…」 「…うん」 日曜日の朝、桜人の機嫌が恐ろしく悪い。 今日は一年に一度、母親に会う日。 半年に一回五歳まで、という約束はいつの間にか一年に一回になり十二歳の今日まで続いていた。 「桜人の好きな物、買ってくるから顔見せて?」 僕の布団に篭ったまま朝から顔すら見せてくれない。 「おーと」 掛け布団の中に手を忍ばせて桜人の顔に触れた。 頬を撫で、鼻、口に手を這わせると…指先に濡れた感触がした。

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