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SS-2-4『兄弟 』
「あっ…!」
びっくりして千隼は腕を引っ込めた。
…桜人の口に…僕の指が…
顔が熱くなり脈が上がる。
「あ…僕…もう行かなきゃ…」
桜人の顔を見ることなく、逃げるように部屋を出た。
きっと僕の顔は林檎のように真っ赤になっていて、このままだと大人達に勘づかれる…。
洗面所に飛び込んで冷たい水で顔を洗い鏡を見ながらタオルで水滴を拭う。
鏡の中の顔は、あの日中庭にいた少女がしていたような…そんな顔をしていた。
ケントさんが運転する車で母親の元に行き、祖父と祖母と時間を過ごす。
母は帰る間際に少しだけ姿を見せた。
「来年は…来ません」
思い切って、そう言った。
桜人が悲しむから。
今の僕はあなた達と会うよりも桜人と過ごす方が大切なんです。
祖父と祖母は少し残念そうな顔をしているように見えた。
事実を確認する事は出来ないが、もしかしたら僕が勝手にそう思ったのかもしれない。
「そう、元気で」
祖父が言った。
「はい、ありがとうございます」
それが、祖父との最後の言葉になった。
「来年は行かないのか?」
迎えの車に乗って帰る道すがら、ケントさんが僕に言った。
「はい、必要ありません」
「…そう」
少しため息混じりの声。
「…行った方が良かったですか?」
少し間を置いてケントさんがバックミラーを通して僕を見た。
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