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SS-2-5『兄弟 』
「千隼がそうしたいのなら、それでいい。ただ…」
「…?」
「…会いたくても会えない…そういう時がいずれ、くる」
誰の事を言っているのか…僕には分からなかった。
いつもは日が沈む頃に帰ってくるのだが、今日は昼食を辞退して早々に家に帰ってきた。
帰って来るなり自分の部屋に入ると、僕のベッドにはこんもりと山が出来たまま。
桜人はまだ拗ねていた。
「おーと。顔見せてよ」
ポンポンと掛け布団をノックした。
「…」
むむ…手強い…
「一緒にお昼食べよ」
優しく猫なで声で桜人を誘いかける。
「…」
「…今日はずっと桜人と一緒にいるよ?」
布団の隙間から桜人に囁いてみる。
「…」
「ねぇ、もう来年からは行かないから」
「…本当?」
掛け布団が捲れ、見えたのは不安げに揺れる目。
「“ 来年は来ません ”って、言ってきちゃった」
ぱあぁ…と曇り空が晴れるように、桜人の瞳が輝いた。
「…桜人、ご飯食べよ?」
「…うん」
ようやく布団の中から出てきた桜人。
パジャマ姿で、よく見れば顔に涙の跡があった。
手を伸ばし緩く桜人を抱きしめた。
「さ、着替えてみんなの所に行こう」
頷く桜人。
…ほら、これで良かったんだ。
桜人が笑顔になってくれるなら、それで…。
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