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第5話
「な……んで……」
火に炙られているかのように、全身が熱い。
息苦しくて体がいうことを聞かない。
水を飲もうと手を伸ばした、その手が水差しに突き当たり、ガシャという酷い音と共に床に落ちる。
「ティア、どうしましたか」
扉の向こうでルチアーノが呼びかける。けれどティアの喉は荒い息を吐くことが精一杯で、大丈夫とも助けてとも言葉にすることが出来ない。
「失礼」
異変を感じ取ったルチアーノは扉を開いた。ダメだ……来てはダメ。こんな姿を見られたくない……
ティアの祈りは届かずに、ルチアーノは息を乱して悶えるティアを視界に捉える。
「ティア……」
ティアは正に発情の真っただ中にいた。ルカを身ごもっている時、ルカに乳を与えている間は訪れなかった発情が突如ティアを襲ったのだ。
全身が焼けるように熱い。内側から燃える身体を醒まして欲しい。
湧き上がる本能に操られティアはルチアーノに手を伸ばす。
「ティア」
形の良いルチアーノの眉間に深い皺が刻まれ、その手が祭服に触れる寸前で止めた。
「あ……」
ダメだ。
神に身を捧げた司祭であるルチアーノに強請れる行為ではない。どれだけ身を焼かれようとも、司祭がティアの欲を満たすことは絶対に出来ない。
「どうしよう……ごめんなさい……ごめ……」
発情した身体はαの精を受けるまで醒めることはない。濫りがわしい己を恥じるティアの腿の間を、後孔から流れ出した愛液が伝う。
欲しい……欲しい。
頭の中で声がする。
取り繕おうとする理性はあっけなく決壊し、ティアは本能に操られて言葉を紡ぐ。
「誰か……誰か…………お願い……ルチアーノ司祭……っ、誰でもいい、から……誰か…………」
欲しい、欲しい――……
誰か秘密を守れる人にこの発情した身体を慰めて欲しいのだと、本能に乗っ取られそうな中、必死で訴えた。
「お願い……します…………目隠しをして、手足を縛って……口も塞いで…………誰にも言わない……で…………」
抱き合うつもりはない。ただ、熱を鎮めるためにαの精が欲しいのだと告げる。
発情した姿を誰かに見られれば、ティアがΩだと知れてしまう。知られたら最後、貴族の屋敷へと送られ、ここには居られなくなる。
訴え続けるティアにルチアーノは険しい顔を続けた後、頷いた。
あとはティアの言う通りにルチアーノが場を整えてくれる。目を隠し、口を塞ぎ、ベッドに俯せる様にしたティアは、足を床に下ろした形で手足を縛られる。
「信頼できる人間を連れてくる」
そう言い置いたルチアーノは、ティアを置いて部屋を出ていった。
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