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第16話

「......」 「はい、じゃあ冬夜は助手席座ってね」 「..........」 あっさり負けた。 絶対に俺の方が有利なはずなのに。 おっかしいでしょ。 別にカップルじゃねえんだから助手席じゃなくても。 イラつきながら、ドアを乱暴目に閉めて助手席に座る。 入った瞬間、なんだか分からないけどいい匂いがした。 岬圭一の車は大きい。 SUVってやつだ。 色は黒。 「何この匂い」 「ん?匂いなんてするかなあ」 「.......」 車に乗り込んだ岬圭一は眼鏡をかけて、俺に家の場所を聞いてきた。 黒縁のシンプルなやつ。 色素の薄い瞳が眼鏡に隠れる。 「なんでお前に教えなきゃなんねぇんだよ」 「さっきの勝負の話、忘れたの?」 「.........学校出て右」 「うふふ、りょうかーい。あ、これでも持っててよ」 もう出たい、と思いながら窓の外を見つめていると、岬圭一が後部座席から何かを取り出して渡してきた。 視線を向けると、でかいぬいぐるみだった。 「何コレ」 「可愛いよね。くまさんのぬいぐるみ」 そんなの持ってんの。馬鹿じゃね?と言いたかったけど。 ニコニコと言われ、うんざりしてきた。 いらいらして、そのくまさんにヘッドロックをかましてやった。 「そこ家」 「はーい」 学校から500mくらいに俺の家がある。 ぼっろいアパート。 「........」 .........見られたくなかった。 抱きしめていたくまさんを後部座席に投げる。 こちらを見る視線に気づかないフリをして、ドアを開けた。 「あ!これ、携帯!」 「.......ああ」 忘れるところだった。 「俺と連絡先交換しようよ」 「は?なんで」 「いらないの?これ」 じゃなきゃ返さないー、って、お前は子供かよ。 「めんどくさ...分かったからさっさとしろよ」 もういい。 ここに長く居たくない。 あの女と鉢合わせしたくなくて、岬圭一を急かす。 「出来たー!」 ニコニコと携帯を眺める岬圭一に、呆れる。 「返せよ、もう」 岬圭一の手から携帯をひったくると、ドアを乱暴に閉めた。

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