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第19話
夜の街は、俺を歓迎してくれる。
いつもそんなくだらないことを考えている。
「オッサン、帰ったぞ」
「おおー、ヨルおかえり」
オッサンと周りの客が返してくれる。
ヨルって名前は、俺のニックネームだ。
「おっ、ヨルくんじゃないか」
「ヨルくんも今日は仕事入ってくれんのか」
「おう」
俺は街の隅にひっそりと建つこのBAR、Peaceでお世話になっている。
バーテンダーのオッサンと知り合ったのは一年前。
オッサンとこのBARに来る客のおかげで、あの女がいてもやっていけている。
「上で着替えたらこっち来て手伝えよ」
「おう」
このBARの上の階は、俺の部屋としてオッサンが貸してくれている。
ハンガーに掛かった制服を手にして着替え、ワックスを使って前髪を全てバックに流す。
「いらっしゃい」
俺はここで働かせてもらっている。
そうでもしないと、生きていけないから。
「.........っふぅ」
「なんかあったろ」
朝四時。閉店して片付けをしていると、オッサンが俺に声をかけた。
オッサンは、かっこいい。
180を超える身長に、外国人のような彫りの深さ、鼻の高さ。まばらに生えた髭、鋭い目付き。
スラリとした身体が白シャツと黒いベストを着こなしている。
俺と同じ服装なのに。
もうだいぶ見慣れたけど、この人はなんでこんなにかっこいいのだろう、といつ見ても思う。
「まあね。ちょっとだけ」
「ふーん」
丈さんは俺の目を覗き込む。
何より、無駄な詮索をしない。
鷹のような目が細められる。
「何かあったら言えよ。耐えられなくなった時」
「耐えられなくなった時?」
「そうだ。...俺は寝る!お前も早く寝な、冬夜」
「...おやすみ、丈さん」
俺と同じオールバックにしていたオッサンは、グシャグシャと髪を崩し、俺のよく知る中田丈に戻った。
ここ半年の生活サイクルは、五時にベットに入り、七時に起きて学校に行き、仮眠をとって帰ってきて十時からBARを開ける。
そんな感じだ。
高校になんか入る気はなかったが、丈さんは譲らなかった。
それで、今の神田高校に入学した訳だが。
「岬圭一.......あぁー...、気が重い」
シャワーを浴び終わって、ベットにダイブする。
あのクソ野郎がいると思うと、丈さんが勧めてくれた高校だとしても、だりぃ。
...本当に、得体の知れないヤツだ。
そんなことを考えているうちに、瞼が閉まった。
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