25 / 64

第25話

「新田さんは今日は早くお仕事上がれたんですね。お疲れ様です」 「ありがとう。ヨルくんの笑顔を見ると元気出てくるよ」 BARでの俺の仕事は、接客。 『お前は接客をしろ。いいか、ただ話を聞いて相槌を打つだけじゃダメだ。一人一人と真摯に向き合え』 丈さんに言われた時は、接待なんか、と思っていた。 でも違うと気づいた。 BARに来る客は、お酒を楽しむだけじゃない。 みんな話すことを楽しみにしているのだ。 特に、Peaceは常連客が多い。 みんな会話を楽しむことが多いのだ。 新田さんもそのうちの一人。 「こんな笑顔でよければ、いくらでも」 「ふふっ、照れるなあっ」 新田さんがカウンターに肘をつき伸び上がってきた。 急にグ、と笑顔の新田さんと距離が近くなり、驚いて目を見開く。 「おい、ヨル。氷足りなくなったから作ってきてくれるか」 「っあ、はい。...すみません、行ってきますね」 「......うん」 新田さんの視線をせ中に感じつつ、そっとその場を後にした。 「あー...終わった」 「おー、店閉めありがとな。ほい、オレンジジュース」 「ちょ、店のものだろ......」 「いいの。どうせ全部俺のだ」 突き出されたオレンジジュースを口に含み、喉を潤す。 「最近新規が増えて客数多いな」 「だな。常連さんも最近頻繁に来てくれるし。......もう一人雇ったら?」 いくら小さいBARとはいえ、人が足りない。 そう思って言ったのに、何故か睨まれた。 怖い。 「誰のせいだと思ってんだ......まったく、」 「?」 何を言っているのかよく分からず、首を傾げる。 「あー、いいいい。じゃ、俺はあがる」 「......おやすみ」 丈さんは頭をグシャグシャと掻き回し、おやすみー、と言って店の奥に消えていった。 人、増えるといいんだけど。 俺はヘロヘロになりながら二階に上がった。

ともだちにシェアしよう!