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第42話
「......そこが店」
岬は何も言わずに店まで送ってくれた。
「Peace.....BARか何か?」
「ああ」
両手のくまさんをじっと見る。
コイツのいる空間は、居心地いい。
「.....これから.....送ってくれるんだったらここに送って」
「.....!うん。分かったよ」
くまさんを後部座席に戻して、ドアを開ける。
「......あ、ありがと」
こちらを見ている岬にぼそっと呟くと、少し照れ臭くなって、さっさとドアを閉めた。
店はまだ開いていないようで、鍵を開けて中に入る。
「おー......、おかえり」
奥から気怠そうな丈さんの声が帰ってくる。
「.....ただいま」
「飯食ったか?作っといたんだけどよ」
さっきからふわふわと漂う美味しそうな匂いはこれか。
「食べる」
丈さんのご飯は、本人はなかなか面倒臭がりやでたまにしか作らないけど、物凄く豪勢で美味しい。
「美味そ...」
丈さんが店のカウンターにドンッとおいたでかい鍋を覗き込む。
......今日は肉じゃがだ。
ごろごろとしたじゃがいもに、たっぷり入った牛肉....噛みごたえのありそうな糸こんにゃくとトロトロした茶色に染まった玉ねぎ。
極めつけは、お花型の人参。
─────ぐぅ
「ほれ、飯よそえ。手ぇ洗ってからな」
鍋に釘付けだった俺を見て笑いながら、丈さんは食器を出し始めた。
「い、いただきます…」
.......うまっ!
ほくほくのじゃがいもは、口の中に入れた瞬間ほろりと解れ、しっかり味が染みていて何個でもいけそうだ...。
「丈さん、めちゃくちゃうまい...」
呑み込むのが惜しいくらい。
「ぁん?当たり前だ、この俺だぞ?」
丈さんがガツガツと肉じゃがを食べているのを見て、俺ももっと食おうと箸をつける。
この後は二人とも無言で肉じゃがを平らげた。
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