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第44話

中田side 先日の保健医にコソコソと食ってかかったヨルに、適当な酒の名前をあげて取りに行かせる。 「いらっしゃいませ」 「...ああ。先日は白衣をありがとうございました」 ニコニコと答える保健医に、俺は肩を竦める。 「いや」 悪い人じゃねぇんだろうけど、あの冬夜が揺れ動きまくってるのも事実なんだよなあ。 「岬先生だっけ?冬夜のこと、どう思ってんだ......?」 酒は?と言いながら冬夜について聞く。 「あ、俺酒飲めないんですよね。ノンアルコールのものを一つ......冬夜くんと知り合いの中田さんには......言いにくいことです」 冬夜が入っていった店の奥をチラリ、と見て答える保健医に、特別な感情を冬夜に対して抱いていることを確信する。 ...やっぱりな。 大方、ウチの冬夜が巻き込んだんだろうけど。 保健医のような奴は、珍しくない。 ウチの常連客にも、冬夜に対して恋愛感情を抱き、あわよくば...と思っている連中もたくさんいる。 それほどに、冬夜は魅力的な奴だ。 「ふん、それをハッキリ言えないようなら、まだまだだな」 悪いけど、俺が拾った猫なんだよ。 そう簡単にあげる訳にはいかねぇよ。 「.........この場で言って良いようなことじゃない、と言えば分かるかな?」 ...なるほどな。 肘を突き、にこりと微笑んだまま抑揚のない声で話す保健医に、少しだけ感心する。 おもしれぇじゃねえの。 「アイツの抱えてるモンが分かるか?保健医」 「俺の名前は岬だよ」 「じゃあ、岬センセイ。俺はアイツには幸せになってもらいたいね。こんな現実逃避みてぇなことを本当はさせたくねぇ」 冬夜は母親から逃げてるだけだ。 本当は向き合ってこい、と言いたい。 でもそれは、俺の役目じゃねぇ。 俺は、アイツが壊れないように支えることしかできない。 でも、このまま続ける気もない。 「アイツがお前にどこまで話してるんだか…全然知らねえけど、覚悟が無いようだったらもう二度とこのバーに来るな」 冬夜は、傷ついていい。 でも、揺らぎすぎて壊れてしまうようなら、俺が止める。 ......冬夜を拾った飼い主として。 ノンアルコールのカクテルを作り、岬の前に置く。 「それを飲んだら、とりあえず帰れ」 「.......」 何考えてるかよく分かんねえ顔をして、岬センセイはグラスに口をつけた。

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