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第49話

椿side 学校に噂が流れ始めたのは、入学してすぐのことだった。 「''眠り猫''さっき見たぜ」 「おー、今日も屋上かな」 クラスの男子が、その噂をしていた。 「なんだ?''眠り猫''って」 気になって聞くと、知らねえの?という目で見られる。 「一組の佐々木冬夜ってヤツ。猫目で黒髪の。そいつ、いつも放課後は屋上で寝てんだよ」 「それで''眠り猫''か」 変わったヤツだな。 「それにしても、可愛いよな...。男じゃなければ俺、襲ってるわ!」 「あはは!俺もだよ!」 冗談を言い合って笑い合う仲間に、俺は興味を持った。 そしてその日の放課後、俺は噂の本人を見つけた。 「失礼します」 バスケ部に仮入部して、練習中に汗で滑って派手に転んだのだ。 足を捻ったこともあり、俺は保健室のドアを開けた。 入ってすぐ目に付くデスクには、誰もいない。 ...奥か? そう思って奥の部屋をのぞくと、一人の男子が寝ていた。 「.....!」 ベッドの傍に転がるスリッパには、『佐々木冬夜』と書かれている。 ...コイツが''眠り猫''か。 起こさないように気配を殺して顔を覗き込む。 「......」 丸めた身体に、伏せられた目を縁取る長いまつ毛、軽く開いたピンクの口。 まさに猫みたいだった。 俺は後ずさって隣の部屋の椅子に腰掛ける。 佐々木冬夜...。 起きている時はどんな顔をするのだろうか。 「お前、よく佐々木といる奴だよな」 ....そして俺は好奇心から、佐々木冬夜とよく一緒にいる原優介に声をかけた。

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