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第55話
「今から説明してやるよ。とりあえず座れ」
時計を見ると、六時半......開店には間に合いそうだ。
「......わかった」
丈さんはカウンターに入って俺にオレンジジュースを出してくれる。
「俺が半年前に冬夜を拾った時のこと、覚えてるよな」
「う、うん」
もちろん忘れるわけがない。
あの日、......暗い路地裏でタバコを吸っていた時のことだった。
あの頃の俺は周りの全てを拒絶し、跳ね除けては攻撃していた。
丈さんから声をかけられた時も、そうだった。
『おい、ガキがタバコ吸ってんのか』
『あ?誰お前』
いつもは睨めば相手は逃げていくのに、丈さんは違った。
『威勢のいいガキだな。よぉ......どこでそんなタバコ拾ったんだよ.....あ?』
『!?』
逃げるどころか、逆にずんずん近づいてくる丈さんに、恐怖を覚えた。
『こっちこい』
『っぁあっ?』
ぶたれる!と思って目を閉じた時には、俺は丈さんに荷物みたいに担がれていた。
まさに俺は、拾われたというわけだ。
「あの時の薄汚れた捨て猫みてぇなお前を見て、優しい俺は面倒を見ようと思ったわけよ」
「......」
ツッコミどころ満載だな、おい。
「で、お前が中学三年生だと知って、明日香のいる高校に入学させようと思ったわけだ。明日香はお前が入学する前からある程度お前のことは知ってた」
そういうこと.......。
たしかに......考えてみれば、納得がいく。
『お前、優しい私が保健室で寝かせてやるよ。そんな所で寝るな』
『こっちこい』
だから、俺が入学したての時に屋上で寝てるところを、保健室にしろと言ってくれたのか。
.....うん、そっくりじゃん。
でも。
「どうして急に休みなんか.......」
「それはだな、お前には岬の方がいいと思ったからだよ」
「えっ?」
どういう事?
「お前、あきらかに女が嫌いだろ?私よりも男の岬の方がいいと思ってね」
まあ.....たしかにそうだ。
「......そうだけど」
でも、よりによってあんな奴......。
「岬が嫌い?」
「えっ......」
三田村先生がこちらをのぞき込むようにして見る。
嫌いって訳じゃない...。
ただ、距離感がちがうから。
俺の来て欲しくないところまで、ずんずん入ってくる。
優しい笑顔で、俺の心に触れる。
「嫌いじゃない.....でも、怖い.....」
俺が、どうにかなりそうで。
変に空いた間をオレンジジュースを飲むことで埋める。
「お前さあ...」
丈さんがカウンターを抜けて、俺の隣に座った。
「岬先生にちゃんと向き合ってみろよ」
「...向き合う?」
「突っぱねるだけじゃないだろ」
「俺が、突っぱねてるって?」
じろ、と丈さんを睨む。
「あんな訳わかんない奴と関わりたくない」
人の嫌がることを平気でしてくるし!
「まあまあ、丈も熱くなるなよ。...そういう時はな、ちゃんと話し合うのが一番なんだよ」
「....」
....確かに...俺はあいつとまともに話したことがない気がする。
「ま、あいつも覚悟をそろそろ決めた頃だろ.....」
「覚悟?」
丈さんはニヤリと悪そうな顔で言った。
「あいつの半端なところを叩きのめしてやったんだよ」
「......」
「だから、お前は色んなことにそろそろ向き合え」
...向き合えって言われても。
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