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第3話

 *** 「疲れさせてしまったか?」  頬へと触れた大きな掌。気遣うような匠海の声音に瞼を開いて辺りを見れば、いつのまにか颯真の姿は部屋の中から消えていた。そんなことはないと言いたくて掌へ頬を擦り寄せる。ソファーへと座る匠海の足元へるように座る佑は、三年以上前から匠海の犬として飼われていた。人道的におかしなことだと言われそうな話だが、佑が望んでなったのだから、何ら問題は見当たらない。  佑の年は二十三歳。ここに来る前は仕事をしながら都内で一人暮らしをしていた。三年間で伸びた黒髪は腰の辺りへと届いており、男にしては華奢な体は色も白く、襦袢を一枚羽織った姿はまるで女の幽霊のようだ。 「ならいいが……自分では気づいてないかもしれないが、ここ数日遊びすぎたから疲れたのかもしれないな」  襦袢の襟へ長い指が触れ、そこを大きく開かれる。下着はつけていないから、それだけで佑の白い肌は、窓から差し込む白昼の陽に晒された。 「お前が颯真に会ったのは、三年ぶりか。大きくなっただろう」 「……うぅ」  胸の尖りを彩っているリングピアスを軽く引かれ、思わず佑が小さく呻くと今度は優しく撫でられる。無駄に声を出すことと、喋ることは禁じられているけれど、自然に出る喘ぎや呻きは気にしなくてもいいと言われていた。 「震えてるな。アイツが怖いのか?」  そう問われ、佑はフルフルと首を横へ振って見せる。颯真と匠海は仲の良い兄弟だから、怖がっていい理由がない。 「そうか? なら、寒いのかな? 今日は散歩に行こうと思っていたが、風邪の引きはじめかもしれないな。このままベッドで休もうか」  主の匠海はすごく優しい。いつも、佑の体調を気遣ってくれる。犬とは言っても四つん這いで歩くようにと命じられたり、犬のように食事をしろと言われたりしたことはない。  ただ、室内犬にそうするように佑の頭や体を撫で、彼がここで過ごすときには一緒のベッドで眠りにつく。  赤い首輪や胸のピアスは所有の証と告げられたから、痛みを伴う処置であっても佑は悦んで享受した。 「またジムへ行かないと、佑はすぐに筋肉が落ちる」 「……っ」  薄い胸から腹の辺りを大きな掌で撫でさすられ、くすぐったさに佑の体がビクリと大きく揺れ動く。すると、クスリと喉で笑った匠海は下肢のほうへと手を動かし、薄い下生えの中で微かな兆しを見せているペニスへ触れた。 「膝で立てるか?」  言われた佑は慌てて頷き、言われるがまま膝立ちになる。匠海の命令は絶対だが、強要するような言い方はせず、優しく促すのが常だ。羞恥心がないわけではないから最初の頃は抵抗もしたが、体調管理は飼い主の勤めだからと諭され、その時だけは強制的に服従するように叩き込まれた。  ようやくそれができた時、匠海が褒めてくれたことに、大きな喜びを感じた佑は、今は匠海の従順な犬となっている。

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