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第6話

 佑はもともと男性にしか恋ができない性質だ。それを隠して生きてきたのだが、そのせいで、中学時代も高校時代も親しい友人は作れなかった。  東京に出れば自分と同じ傾向の人と出会えるものだと思っていたが、実際上京してみると、日々の生活や仕事に追われて全く恋愛どころじゃない。だから、店へ来るたびにその男性が佑を指名してくれている状況に、淡い期待を抱いたとしても仕方のないことだった。  食事に行こうと誘われた時の気持ちは今も覚えている。心が浮つき彼との未来をいろいろ想像しかけては、勘違いしちゃ駄目だと自分の心を慌てて制御した。 『君は同性愛者で、私のことが好きだろう?』  三回目に食事をした際、帰り際にそう言われ、佑の頭は真っ白になった。 『答えは?』 『ごめんなさい。俺……』 『謝る必要はない。私も佑に興味を持っている。だから声をかけたんだ』  彼が選ぶレストランは高級な店ばかりだが、個室へ直接通されるから、ドレスコードは気にしなくてもいいと言われている。彼も佑に合わせてくれているのだろう。ラフな格好をしているが、シンプルな服も彼が着ているというだけで、質の高いものに見えた。 『それって、どういう……』 『花屋で偶然見かけた佑に興味を持った。もっと知りたいと思った。佑もそうだろう?』  完全に、心の中を見透かされてしまったようだ。自分のどこに彼が興味を抱いたのかは知らないけれど、話すのが得意ではない自分の話を、楽しそうに聞いてくれる彼のそんな優しさに……佑の中でも一目惚れがいつしか恋へと変わっていた。 『ただ、それは恋愛や性的興奮を含む感情ではない。佑には申し訳ないが、そういったことを期待させてしまっているなら、それは不可能だ』  佑の頭が悪すぎるのか?  言っている意味が分からなかった。けれど、その後も話を続けた彼が、佑を側に置きたいと……思っているのは理解した。  ここで関係をキッパリと絶つか?  それとも、犬として飼われるか?  佑へと与えられたのは、ありえないほど極端なニ択。けれど、有無を言わせない彼の雰囲気に反論は思いつかなかった。最初の質問に否と答え、次の質問に頷いた時、彼の口角が綺麗な笑みを象ったのを、佑は一生忘れないだろう。

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