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第9話
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『いいのかよ』
『ああ、いいぜ。妊娠する心配もないし、穴の具合も悪くない。それに、飼い主もあと一週間は帰ってこない』
佑が匠海の弟である颯真によって犯されたのは三年前。飼われてから半年ほどが経過した頃のことだった。
主不在の部屋の中、一人で読書をしていた佑を襲った嵐は突然で――だけど、悪夢のような残酷な時が流れる中でも、佑は一度も言葉を発しはしなかった。それは、匠海からの徹底した躾による結果だが、この時ばかりはその従順さが裏目にでたと言えるだろう。
匠海に飼われはじめた当初は、ふとしたことで自然に言葉を発してしまった佑だが、その都度匠海にきつく叱られ、時には痛い目にもあった。しかし、上手くできれば褒めてもらえた。犬のように撫でまわされ、『いい子だ』と優しく声をかけられて、甘い菓子まで与えられた。颯真が言っていたような、性の捌け口などではなく、本当に愛玩犬と同じ扱いを受けていたのだ。
『じゃあ遠慮はいらないな』
あの時……颯真に無理矢理犯されたあと、気を失った佑が目覚めると、待っていたのは颯真の友人だという二人。
――やだ、もう、もう……見たくない!
彼らの手から逃げられないのは知っている。これは過去の映像で、過去を変えるなんてできやしない。ここから匠海が帰るまでの数日間の佑の記憶は、断片的になっているが、恐怖は決して忘れない。逃げようとすれば引き戻され、体を何度も打たれ続けた。代わる代わる知らぬ男のペニスをアナルへ突き立てられ、食事もろくに与えられないまま、道具のように犯され続けた。彼らが部屋にいない間は、拘束をされ道具によって苛まれ、佑の体は否応なしにオンナへと作り替えられていく。
『別に兄さんに言っても構わない。犬を使ったくらいで怒ったりしないだろうから』
発狂しそうな状況の中、それでも声を出さずに耐える佑の体を深く貫き、颯真は低く囁いたけれど、匠海に伝えるつもりはなかった。匠海は弟を溺愛しており、佑と一緒に居るときは、いつも颯真を褒めている。だから、仮に佑が言ったとしても、何も変わらないだろう。それに、伝えようにも喋ることは禁じられている。
『やっぱり……帰ってくる前に捨ててやろうか』
そんな声も聞こえたが、実行されることはなかった。なぜなら、予定より早く匠海が成田へ到着したとの知らせが颯真に入ったから。それを佑が知ったのは、一人残された部屋の隅、ガタガタと体を震わせながら、蹲っていた体を優しく包み込まれた時だった。
『何があった?』
彼らしくもなく焦った声音に涙がボロボロ溢れだし、心の制御ができなくなった佑は声を上げて泣き続け――。
「佑、起きろ」
「うっ……う」
「また、颯真の夢を見ていたのか?」
涙で滲んだ視界の中に匠海の顔が映り込み、やっと夢から覚めた佑は安堵の息を吐き出すが、彼の放った言葉を脳内で反芻したその途端、頭から血の気が引いて心拍音が大きくなった。
「あっ!」
続いて下肢から這い上がってくる違和感に気づき声を上げるが、自分を見下ろす端正な顔はいつものように優しげな笑みを浮かべている。
「ここを使うのは三年ぶりか」
仰向けになった佑の両脚は匠海の肩へと担ぎ上げられ、覆い被さる格好の彼が、あろうことか、その長い指を佑のアナルへ挿入していた。
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