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第10話

「その割には、気持ちがいいみたいだが」 「う、ううぅ!」  腰を持ち上げられているせいで、彼の指先が自身のアナルへ飲み込まれている様子が見える。それと同時にグチュリグチュリと卑猥な音が鼓膜を揺らし、ありえない熱と体の変化に佑は思わず逃げようとした。 「待て」 「ヒッ!」  脚をばたつかせ、体を捩ろうとした刹那、凛とした声が室内へ響き、同時にアナルの中の一点が叩くように圧迫される。 「アッ、アッ!」  この感覚は知っていた。知っているけれど思い出したくない。逃げ出したいと強く思うのに、こちらを見下ろす匠海の瞳が佑にそれを許さない。 「俺が好きだろう? なら、今は俺のことだけ考えろ」 「う……ぐ、うぅ……ん」  なおもしつこくかき回され、なにがなんだか分からなくなった。疼きは愉悦に姿を変え、下半身から背筋を這い上がり脳天までを突き抜ける。  ――こんな……おかしい。  三年以上側にいて、こんな風に扱われるのは初めてのことだった。颯真に無理矢理犯されたあと、少し関係は変わったけれど、胸のピアスは外出する際外す首輪の代わりだと言われ、自慰を見せるのは体調管理と言われていたから、佑もそうだと思いこんでいた。  散歩の時は首輪を外し、洋服を着て外へ出る。言葉を発しはしないものの、食事をしながら彼の話に頷いたり、一緒にジムで汗を流したり、それだけで佑は幸せだった。 「佑が颯真を庇かばったりするから」 「……うぅっ!」  唐突に指を引き抜かれ、後孔内へと空気が触れて寒さに体が震えてしまう。 「これまでは夢と許してきたが……どんな感情でも、俺以外に向けられるのは不愉快だ」  どういう意図で話しているのか? 佑には理解できなかった。ただ、よく見る悪夢に颯真が出るということは、とっくに知られていたらしい。 「ん……ふぅ」  不意に唇を塞がれて、食むものをなくしたアナルの縁へ、ビトリと何かが宛てがわれた。その正体が分かったから、彼の肩口を掴む指先へ自然と力がこもってしまう。 「う、うぅっ……んんっ!」  舌を吸い、上顎をザラリと舐めた匠海が腰を進め、長大なペニスで佑のアナルを徐々に割り開く。この、体の中身が押し上げられるような感覚も、佑にとっては初めてではない。圧迫される気持ち悪さに、佑が吐き気を催したのは、過去の記憶が脳裏へと……切れ切れの映像となって現れたからに他ならない。 「んっ、ぐぅっ!」 「これからは、それも許さない」  そんな佑の心の中を見透かしたように言い放ち、僅かな兆しを見せるペニスを匠海は容赦なく握る。痛みに佑はのたうつけれど、両方の脚を担がれたあげく彼のペニスを挿入された状態では、逃げ出すことも適わなかった。 「痛いか?」 「くぅ……ん」  問われた佑が必死に何度も頷けば、僅かに力を緩めた匠海が尿道口へと触れてくる。 「でも、体のほうは期待してる。カウパーでべとべとだ」 「うっ、うぅっ!」  親指の腹で先を擦られ腰がガクガクと上下した。気持ちが悪いはずなのに、同時に愉悦も感じてしまい、状況についていけない佑はとうとう涙を流し始めた。  自分の何が悪かったのかが分からない。  だから……罰と言われても、何を反省したらいいのか分からなかった。 「狭いな。あの時は、あんなに広がってたのに」  なおも腰を進めながら、独白のように匠海が言う。  それ以上は入らない……と、佑は腰を引こうとするが、ペニスを掴む掌が離れ、陰嚢とアナルの間、会陰と呼ばれる部分を指先で強めに押されたその刹那、これまで感じたことのないような愉悦が背筋を突き抜けた。

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