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第3話

「先生は患者が身分を明かさなければ、治療なさらないのですか?」 「患者」ならそんなことはない。だがお前は病気ではないだろう。 そう言って追い返すこともできたが、俺はこの青年に興味が湧いた。 人形のように整い、眉ひとつ乱すことのない美しい容貌。話す時の口の動きや瞬きさえ、機械仕掛けに見えるほどだ。思惑の読み取れない涼しい顔で真っ直ぐに見つめる黒い瞳は、底知れぬ闇を感じさせる。 冬の日は短い。すでに外は暗くなってきた。夜の雪山に放り出すことなどさすがにできないし、今夜は泊めてやるしかないだろう。 雪に閉ざされた庵はいささか退屈だ。人と話をすること自体、一月ぶりだった。 「治療の一切を口外しないと約束してもらわなければ、施術はできない。俺のやり方は特殊で、理解されにくい。病が治ると噂になるのは構わないが、どんな治療なのかが知れ渡ると厄介なんだ」 そう告げると、緊張で強張った陸奥の顔が少し緩んだように見えた。 「決して口外しないとお約束します」 「何をしても文句は言わせんぞ。俺の指示にもすべて従ってもらう」 今なら何を言っても服従するだろう。陸奥はこくりと一つ頷くと、無防備な浴衣姿で一途に俺を見つめている。 俺は立ち上がり、ストーブから土瓶を下ろすとその中身を湯呑みに注ぎ、小盆に載せて陸奥の前に置いた。 「じゃあまず、その薬湯を飲め。身体が温まる。ただし、一気に飲むなよ。身体の隅々にまで行き渡るようにと考えながら、一口ずつ飲むんだ」 「分かりました。ここに何の薬草が入っているのか、聞いてもよろしいでしょうか?」 「聞いてもいいが、全てを教えはしない。生姜、桂皮、あとは味から勝手に推測しろ」 陸奥は茶碗を両手で押し戴くと、黄金色に澄んだ薬湯を見つめている。香りを確かめるように目を閉じ、唇を窄めてふうっと吹いてから(おもむ)ろに口をつけた。 俺は押入れから替えの敷布を出して敷きっぱなしの布団に掛けた。 陸奥が指示どおりに一口ずつ薬湯を飲むのを横目で見ながら、(こう)の用意をする。燐寸(マッチ)で先端に火をつけると、細く白い煙と甘苦い香りが立ち上った。 薬湯を飲み終えた陸奥が、茶碗を盆に戻すコトリという音がした。 細い脚を前に投げ出し、指示を待つようにまっすぐ見上げてくるその眼差しに、先ほどまでよりも艶があるように見える。 「裸になって横になれ。下着も全部だ」

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