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第8話
指先に触れる膨らみをゆっくりと撫でながら、反応する身体を恥じて震える彼の姿を観察した。
勃ち上がった陸奥の先端には透明な体液が滲み、放出に備えて尿道を自浄している。
順応の早い身体に驚きつつ、射精が近いことを悟った俺は、あいた方の手で陸奥の陰嚢を包んだ。会陰から陰嚢にかけてを、手の熱で温めながら優しく揉む。小ぶりな双球は俺の手の中でもったりと動いた。
必死に自制しているのだろう陸奥の腰がもどかしそうに揺れ、隠しきれない興奮が乱れた息とともに外に漏れていた。
「…… ぅ…… っ!」
低く小さく、息が喉に詰まったような音をさせ、陸奥の腰がガクンと揺れた。
その刹那、彼の右手が空を切り、自らの屹立の根元をキツく握りしめた。歯を食いしばり、息を止めた陸奥の身体が数回、痙攣する。
俺の手の中で持ち上がった双球はその中の白濁を放出できず消沈したように、ゆっくりと戻り重みを任せてきた。
「何を…… しているんだお前は…… 」
射精を自ら握り止める患者など初めてだ。
思わず怒ったような声が出てしまい、陸奥が戸惑いを隠さずに顔を向けた。
「何か、いけませんでしたか?布団を汚してしまうと思ったので…… 」
「老廃物を出すんだと言っただろう?」
「え…… ? 」
陸奥が記憶を辿るように瞳を揺らす。はっきりとは伝えていない。だが、まさかあんなふうに止めるとは思わなかったのだ。
「申し訳ありません。あの…… 粗相をしてはいけないと、咄嗟に…… 」
また機嫌を損ねたかと危惧したのだろう。陸奥は上半身を少し起こして不安そうに俺を見上げた。
捻った腰の曲線が艶めかしい。
西洋絵画の裸婦のようなその姿に、目が吸い寄せられた。
俺はため息をついて手拭いで指を拭いた。驚いたせいで気遣わずに一気に抜いてしまったが、爪も切ってあるし大丈夫だろう。確認のために目を向けると、油で濡れた秘孔の入り口に古い傷跡が見えた。
「…… 先生?」
「もういい。うつ伏せになれ、背中を診るから」
陸奥はホッとしたように再び身体を横たえ、脇によけてあった手拭いをそっと自らの性器の下に敷いた。
脱力しているように見せかけてはいるが、腰からのびる白い双丘が少しつき出している。無理やりに射精を抑えた陸奥の屹立は完全には治まっておらず、体重を乗せることができないのだろう。
俺は気がつかないふりをして、肩から背中にかけて油をなじませた手をすべらせた。薬湯と香 、それに性的な昂りによって熱を持った身体は、桜の花びらのようにほんのりと色づき温かい。
「お前…… いろいろと身体に不調があると言っていたが、今はどうだ?どこか痛いところ、つらいところはあるか?」
背中から腰へと按摩する手を下ろしながら、できるだけ優しい声を出して俺は尋ねた。
「今は…… 疲れたのか、頭が痛いです。お腹も少し…… 」
「止まらないと言っていた咳は、もう出ないようだな?」
短く息を吸う音がした。さすがに、言われてすぐに咳こむほど馬鹿ではないらしい。もとより、胸に触れた時からそこに病巣がないことくらいは分かっている。
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