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抱きしめあげるぞ

「…………」 「…………」 「…………」 気、気まずい! 何か、何か言わなきゃ……えっと、えっと…… こういう時に話慣れてない分、上手く盛り上げられないのが昔からの僕の良くない所だ。 いつもはそんな自分に嫌気がさしてしまうのだけれど、椎奈くんとだとなぜだか嫌じゃない。 むしろ、もっと話したいな……って。 それはきっと、椎奈くんが意外とちょっぴり照れ屋で優しくて、話を最後まで聞いてくれる性格だからだろうか。 それに、焦ると言葉選びに苦戦する所は少し僕と似ているのかもしれない。 「な、なに見てんだよ。抱き絞めあげるぞ馬鹿」 あと暴言のレベルがちょっと低い!! 口調は少し荒いものの、もっと「殺す」とか「ぶちのめす」とか野蛮なこと言われると思ってたのに椎奈くんの口から出る言葉は割と普通だ。 『抱き絞めあげる』は普通かわからないけれど…… っていうか聞いた事ないよそんな脅し 「ふふっ、」 「ん?」 「いえっ。なんでもないですよ!」 「……?あぁ。」 ふと目が合うと途端に顔を染める椎奈くん。 わっ、わっ……そういう反応、こっちまで照れる……! 「……甘いもの、ここでいい?」 「くれーぷ?」 「そ。俺のおすすめ」 ガラス越しに見える店内で美味しそうに焼き上がる薄い生地にもちっとホイップが巻かれて並んでいく。 口にした瞬間、そのお客さんの顔はたちまち笑顔に溢れる。 「お、美味しそうです!」 「食ったことねぇの?」 「はい。あまりお出かけとかしないので……」 「ふーん……ここにするか」 あ……、またあの顔だ。 どこか優しげな、安心する顔。 ずっとその顔だったらもっとモテそうなのになぁ。 どうして僕なんだろうか……? どうして話したことすら無いようなこんな地味な僕を想ってくれたんだろう。 ひょっとして覚えてないだけで実は話したことあったり……? まさか、喧嘩……? だめだ、全然記憶にない……

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