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らしいこと
「うぅ………っくしゅん!」
外はもう木枯らし吹く10月中期。
まだムズムズする鼻の頭がキンキンと痛む。
手袋忘れた両手をマフラーの中に突っ込んむと、ひやっとした手が首に当たって気持ちいいような、よくないような。
「……寒いな」
「寒いですねぇ」
隣から「ん、」と差し出される手
そっと顔を見上げるとバチッと合う視線。
えっ、どうしよう………握っていいのかな
でも椎那くんも手袋してないし僕の冷たい手のひらで冷えちゃったら……
「でも僕……、!」
右手が不意にぎゅっと暖かくて柔らかい何かに包まれて思わず反射で握り返してしまう。
「えっ、椎那く」
「俺が繋ぎたいの」
なんて言おう……なんて言おう……
でもドキドキして視線を逸らすしか出来なくて。
「お、お邪魔します」
「どうぞごゆっくり」
僕より少し高い位置にある顔を横目で見あげると若干微笑んだ口元が見えた。
「……あったかいですね、椎那くん」
「あ?……あぁ。さっきまでポケット入れてたから」
そう言ってぐいっと引き寄せられてポケットの中に繋いだ手を入れられる
わっ、わっ……!
さっきまで椎那くんがいた温もりがまだ残っていてすごくあったかかった。
なにより、指と指の間を絡める、所謂恋人つなぎによって距離がほぼないくらい近づいたからか全身が火照るようだった。
「あ、あああったかい……です」
「ふ、そうだな。」
歪な感想にも微笑んでくれて、優しいなぁなんて。
あ、今少し力強くなった。
椎那くんの手は柔らかいけれど、やっぱり喧嘩もするのか所々に豆や切り傷が残っている。
痛そうだな……
握る力はこんなに優しいのに、やっぱりボコボコにしたりするのかな。
「……はは、お前わかりやすいのな。しねーよ、ボコボコになんて。ちょっとの間眠ってもらうだけ」
「…………ぁ、」
やっぱりヤンキーだ……!
「っふは、冗談。ほら、何食いてぇの」
「え、えっと……」
いちごホイップ、チョコバナナ、ブルーベリーチーズケーキ………どれももちもちで美味しそうで選べない。
「おすすめはなんですか?」
「あ?……チョコバナナ」
「じゃあチョコバナナで!」
「じゃあ俺は苺のやつ」
それぞれの番が来て一緒にお会計を済ます。
僕がおどおどと小銭を集めてる間に椎奈くんが全部払ってくれたのだ。
「あの、ありがとうございます!明日きっちりお返しします」
「いらねぇ」
「えっ、でも」
「……じゃあお金はいーから、ひとくち寄越せ」
「はい!どうぞ、こことか口つけてないですから」
ガブッ
ここ、と指したところじゃなく歪に齧った 跡がある所をワイルドに躊躇なく頬張る。
口の端にホイップを付けた椎奈くんがものすごく可愛くて思わず笑ってしまう。
「らぁに、わらってんらよ…」
じと、っと睨まれてしまうがそんな顔で言われてもなぁ〜……ふふっ
「……ほんとは口からが良かったけど…」
ふと口元に手が伸ばされる
「次はここにするからな」
そう言う椎奈くんからはさっきまでとは違う、獣のような雰囲気が漂っていた。
わっ、本当に食べられてしまいそう……
一瞬でもどうしてときめいてしまったのか、自分でもこの時はまだよくわかっていなかった。
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