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俺はシンデレラになれない【Bar】──3

 そして、クスノキさんはアタシにも見せてきた。 「ユーキ君はどうやったら履いてくれると思う?」  彼のまだ隠れた部分と、欲を。 「……はいぃ?」  アタシの驚きにクスノキさんは喉を鳴らせて笑う。わかるように、知らしめるようにアタシに教える。 「……ふっ、ははっ!」  この二人はまだ、付き合ってないらしい。  ユーキは少しも変わっていない。めんどくさい方法を彼は取る。  自分を整理するために、アタシに会うのだ。  アタシはグラスに残ったカクテルを飲み干した。 「ふぅ、どうでしょうねぇ。アタシはあいつじゃない」  アタシの主観で答える事は出来ない。 「そりゃそーだ」 「好きにしていいんじゃないですか? もうしてると思うけど──あなたもいい子みたいだし」  そう言うとクスノキさんは一瞬だけ目を見開いて、やっぱり喉で笑った。彼の癖だろう、これがこの人の本気の笑いだ。  三本目の煙草に火を点け、白い煙が濃く、薄くなっていく。新しい灰が煙草の先からひとかけら零れた。 「あ、そっか。履いてもらう前に脱いでもらわなきゃか」 「なんかエロ──」  ──エロい、と思ったのが上書きされた。  クスノキさんが、舌舐めずり。  いい子、撤回。  この人、とんだ猫かぶりだ。 「──俺、脱がす方が好みだったわ」  ……これはわるい子、いい笑顔。 「…………なんの話っすか」  と、ユーキが戻ってきた。深い眉間の皺は警戒の表れ。さてどう言おうか、下唇を指でひと撫でして考える。  いい子わるい子──どっちもいい奴、クセ強いけど。なんて、アタシも人の事言えないけど、まぁ付き合い長い方を取りましょう。 「泣かされたらいつでも胸貸すわよって話」 「はぁ?」 「残念、もう泣かしちゃった」 「あーら興味深い」 「そーでしたっけぇ?」  ユーキが思いっきり棘をつけて嫌そうな顔で座った。 「おかわり」  はいよ、とアタシは立ち上がる。楽しいヒールの音が大きく鳴った。  履かせたいなら、脱がしてやる。  履かせたいなら、脱がしてみろ。  クセが強すぎる主人公達はカウンターで話している。眼鏡に煙草、空いたグラスに静かな横目が時折強く、柔らかい。  いい雰囲気──似合いの二人。 『riff(リフ)』のマスター、名前はヨー。  ヒゲの化粧に、ハイヒール。  只今、脱がせてくれる登場人物募集中。 「──羨ましいなぁ、まったく」  そう呟いた『俺』はまた一つ、二つとヒールを床に叩いた。 【Bar──終わり】

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