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アレキサンドライト・ロング・デイ【グリーンサイド】──4

「……これがノーカンなら、俺もユーキさんの身体、好き勝手します」 「はーん? 例えばぁ?」  どうせ出来ないだろ、と言わんばかりのユーキさんの前で俺は立ち上がり、見下ろしながら言った。 「──今から二十四時間、一睡もせずにユーキさんの身体を動かしまくります」  俺の身体のユーキさんの眉がぴくりと動いた。 「来週いっぱいまで全身筋肉痛になるレベルまで」  正直、今起きてるだけでも瞼が重く、すぐにでも布団に倒れ込みたい。この疲労はユーキさん自身が知っている事だし、さらに上乗せで疲労を積まれたらどんな事になるか想像はつくだろう。 「……シロちゃんのくせに」 「今は『ユーキ』なので」  何とか言いくるめられたか、俺の身体のユーキさんはため息をついて諦めたようにがっくりと頷いた。そうこうしている内にもう時計は六時半を過ぎている。 「はい、そしたら俺のスマホのケースつけてください」  ユーキさんのスマホは何もカバーがないので、これで一応のカモフラージュになる。 「何かあれば連絡出来るように、ライーンも交換しましょう」  きっと俺よりもユーキさんの方が困ると思うからだ。ミュートも解除を、と念を押す。 「はいはい。はー……寝倒す予定が丸潰れだくそが……」 「それは俺が変わりにしておきます」 「やっぱり嫌だ、行きたくない」  今度は駄々が始まった。しかし俺だって駄々こねたい。こんなに疲れ切った身体と交代させられたのだ。駄々というより文句に近いが、めんどくさくなるのでぐっと堪える。 「ユーキさんよりもずっと健康な十九歳の身体です。なんとかなりますって」 「何それ自慢?」 「ただの比較です。って、ユーキさんも十九歳だった事ありますよね? とにかく早く帰ってください。まずはヘースケさんの部屋以外の窓を全部開けて空気の入れ替え、それやってる間にシャワー浴びて着替えてください。洗濯物もあるので色別、種類別にネットに入れてくださいね。米はタイマーで炊けてるので朝食の用意をしつつ、八時になったらヘースケさんを絶対に起こしてください」  つらつらと今日の予定の序盤を言っている間、俺の身体のユーキさんの顔が三回くらい変わった。今はどんよりと暗い顔をしている。俺がいつもやっている事で、特別大変な事ではない。何か不足があったか、と付け足そうとしたら、のろり、と俺の身体のユーキさんが立ち上がった。  ここで新感覚。  ユーキさんもヘースケさんに比べたら随分背が高いけど、俺ってこういう風に見えるんだなぁ……。  いつもより視線が上で、でかいって言ったらでかくて──やっぱりユーキさん達よりガキの顔付きなんだなと思った。 「覚えきれねぇからライーンしといて……」 「あ、はい。ユーキさんの方で気を付ける事は?」  すると俺の身体のユーキさんはバッグから財布を取り出し、こう言った。 「何もないから安心しろ。もし誰か来ても無視を決め込め。飯とかは冷蔵庫ん中のやつとかインスタントで。好き勝手やっていいから。それと、ん」  と、二万円を渡してきた。 「え、あの……」 「何かあった時のためにだ。主に俺がピンチの時の」  そう言ってスマホをポケットに直して玄関へと向かい、靴を履き始めた。俺はそんな俺の身体とユーキさんを見送る。 「ありがとう、ございます。あの、俺の部屋に生活費として預かっている財布があります」  黒い長財布は一番下の引き出しに、そして俺の財布はバッグの中にと教える。ちなみに自分の財布には千五百円くらいしかない事を教えておく。 「俺も極力家から出ねぇようにすっから──」 「──いえ、今日の予定は結構外に出なきゃ、なんです……」  俺の身体のユーキさんは睨んできた。  わあ、怖い俺の顔。 「……いってきます」 「い、いってらっしゃいです。俺はその……二度寝しますね?」 「うっせばーか! しっかり寝ろ!」  迫力とは裏腹に、俺の身体のユーキさんは静かに玄関のドアを閉めた。鍵を締めた俺はまたベッドに戻る。  ……大丈夫かなぁ……俺とユーキさんって種類が全然違うしなぁ……とにかくライーンしなきゃな……。

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