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アレキサンドライト・ロング・デイ【イエローサイド】──5

 窓は全部開けた。シャワーも浴びた。デニムとパーカーに着替えた。いつもしていると思われるエプロンも発見したのでそれも着けた。洗濯物も指示通りにべっこにした。寒いので窓を閉めて、リビングキッチンのエアコンのスイッチを押した。朝飯はネギと豆腐の味噌汁を作った。卵焼きも焼いた。ほうれん草のお浸しみたいなもんがタッパーにあったので出した。おかずだけでもと先にテーブルに並べて──この配置でいいんだよな? と思いながらも壁時計で時間を確認する。  八時五分前。  別にヘースケを起こすなんて初めてじゃねぇけどぉ……。  シロちゃんの身体の俺は廊下を歩きながら、すぅはぁ、と一回深呼吸する。勝手知ったる他人の家、のようなヘースケの家なので、どこがどの部屋というのは把握している。しかし仕事部屋と寝室は別で、扉の前でまた、ふぅ、と別の息をついた。なんとなくポケットに入れていたスマホを取り出し、シロちゃんからのライーンを確認する。 『ユーキさんは今、俺になってるんですから俺らしく振舞ってくださいね。ほんとお願いします健闘を祈ります』  なんとなくパーカーのフード、首元を整え、髪も気にする。  シロちゃんらしくっつったら……。  控えめにノックを二回した。もう一度ノックを二回──返事なし。ライーンには絶対に起こせとあったので、俺はドアノブに手をかけた。 「失礼しますよ……」  枕元のスタンドライトが緩く灯っている部屋はベッドとクローゼットがあるのみで、そのベッドに膨らみを見つけた。  寝てんのいいなぁ……じゃなくて。 「ヘースケ、さん。朝だぞ──ですよっ」  くぅっ、話し方めんどくせぇ!  すると、もぞ、と布団が動いた。 「……もぉ朝ぁ?」  顔出して喋れ。 「そーです。朝、ご飯、出来てるんで起きろください」  ミスった。 「……あと五十分」  ざけんな。  俺は布団を軽く捲った。やっとで見えたヘースケの顔はクマが少し出来ていて疲れが取れていないといったようだった。土日の俺のような顔で、眼光もそれだ。 「……睨んでも時間は時間です」  眠りを妨げられた目はまだぼやけているのか、あー……、とくぐもった声を漏らす。 「──なんか今日は起こし方優しー……」  え。 「いつもは布団剥ぎ取るし無理矢理腕引っ張って起こすのにさー……しかも後ろに倒れないように背中に回って布団も畳んじゃうのに……」  シロちゃんそんな事してんの? 効率良いっつったらそーだけど。 「た、たまには違う方が目も覚めやすい、かと?」  なんとか言い訳をつけて布団を剥ぎ取る。 「うー……顔洗ってから行くー」 「おう」 「おう?」  しまった。 「お、オーケー、です。よ、用意しますねっ」  足早に寝室を後にしてキッチンに戻った俺は、はぁぁぁ、と深いため息をつきながらしゃがみ込んだ。  くそが! 絶対俺の方が大変なミッションだろこれ! 何回つまづいたよ……ってこうしちゃいられねーんだよな。  とろ火にかけておいた味噌汁をついで、ご飯をよそって、テーブルに並べて水をコップに注ぐ。箸は多分……こっちがヘースケ?  そうしていると顔を洗ってきても顔が変わらないヘースケがのそのそとキッチンへやってきた。 「お箸は僕がやる。あれ? 今日納豆も出すって言ってたのに」 「いーまから出すとこですっ」  あっぶねーっ、そういうのも逐一ライーンしろよシロちゃん!

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