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アレキサンドライト・ロング・デイ【グリーンサイド】──14

「すみません、既読ついたので起きてるのかと」  返信しなかったのは俺にライーンをしていたからだろう。だがこういう理由ならちゃんと内容を送ってくれたらこっちで対応するのに、とも思った。薄らと目を凝らしながら仰向けに寝返る。手探りで当てた眼鏡をかけて、くゆる煙草の煙に少し咳が出た。 「──ちょっと失礼」  ぎょっとした。トールさんが覆い被さるように腕を伸ばしてきたのだ。チェストにあるスタンドライトを点けたかったようで──ぱっ、と点いた灯りに目が眩む。腕で眼鏡の上から目を隠した。 「あっは、ごめんごめん」  楽し気なトールさんの声と、その顔が腕の端に見えた。飲んだ後だろうか、少し酒臭い。  そして俺はまた、ぎょっとした。トールさんが俺の──ユーキさんの唇を指でなぞってきたからだ。 「なっ──」 「──よだれ」  と、指の背で口の端まで拭ってくれただけのよう、だ、けれ、ど。  大人の人はこういう事を誰にでもするのだろうか。恥ずかし気もなく、親切心で出来るのだろうか。俺はヘースケさんの世話でよくやったりするが、この二人はどういう関係か。 「……ありがとう、ございます」 「え?」  今度はトールさんが驚いたようで、俺も、え? となってしまった。ぽかん、とした口がゆっくり動く。 「舌打ちでもされるかと思ったのに」  しまった。今のはいつもの俺の反応だったか。しかし拭ってくれたのは事実だし、その返しは辛辣すぎる。 「ふふふ、新発見です。思いっきり眠い時のユーキ君は素直なんですね」  楽しそうなトールさんがわからない。二十七歳の男の人でも年下扱いか、弟のように思ってるとかだろうか。  うーん……。  どう考えても二人の関係性が見えない。なので俺は隠れる事にした。布団を目元まで引き上げて、眠い振りだ。それでも気になって薄目でトールさんを覗き見てしまう。  薄暗いオレンジの灯りとスタンドライトの強い灯りで、トールさんの横顔に影が出来ていた。透明の眼鏡の奥は少し潤んでいて、口は微笑んでいる。指の間にある短い煙草は大人を示していた。半分だけ脱ぎ掛けのコートが気になる。ふいに掻き上げた髪が一束、ほろりと頬に落ちた。 「──そんなに見てどうしたの?」  驚いた。おじさんは気づいていないように、気づいていた。灰皿に煙草を押し消し、布団の上から俺の足を──ユーキさんの足をふわりと撫でた。コートの袖から腕を抜く仕草が、いつものおじさんじゃないみたいだ。 「ん?」  詰めて、と言わんばかりにトールさんはベッドに横になった。壁の方に寄っていた俺だったので、そのまま頬杖をついて俺を斜めに見下ろしてくる。  これは……友達とかじゃ、ない気が……。  さすがに、気づいた。  …………えぇーーっ!? ユーキさんとおじさんって、つ、つ、付き合ってんの!? いつから!? 違うっ、やばい! この雰囲気は結構やばい!! 「今日は何だか可愛いねぇ」  う、うわああああっ、痒いぃいい……っ。  全身の鳥肌と身震いに、寒いの? と勘違いしたトールさんは、入れて入れて、と布団を捲ってきた。なす術なく、俺は腕をクロスしてガード体勢になるしかなく、次の行動は何だ!? と敵情視察、もといおじさん視察をするしかない。セミダブルとはいえ、百七十五センチオーバーの男が二人だと狭いが何とか並び寝る。こんな状況なのに、少しの既視感に俺はふけってしまった。  昔、子供のころによくおじさんとこうやって寝ていた。兄さんはあまり遊んでくれなかったから、そういう事がとても嬉しかったのを覚えている。  安心する感じは変わらず、懐かしくなって思わず俺は少しすり寄ってしまった。  これが、いけなかった。

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