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アレキサンドライト・ロング・デイ【ユーキサイド】──19
重い足で部屋に戻った俺はコートも脱がずにソファーに腰を下ろした。重い足なんて言ったが、マンションの外で五分くらい時間を潰した。しかし寒くて我慢できず戻った──トールさんがいる部屋に。
テレビのそばに移動されていた煙草に腕を伸ばし、早々に火を点ける。今日ほぼ一日吸えなかったせいか少しむせた。
あー……。
張ってた肩の力が抜ける。家事とか走りとか口調とか、いつもしない事をしたせいだろう。立ち上る煙を見ながら今日をふけった。
……やっぱ俺は気ままなのがいいや。寝倒す土曜日、夕方のビール、気にしない煙草。
そしてふらっと現れる、こいつ。
うつ伏せでベッドを占領しているトールさんを後ろに観る。すーすーと寝息が聞こえる。よく見たら部屋が綺麗になっていた。煙草を消し、乾いた喉にテーブルにあった飲みかけの水を飲み込む。コートを脱いで、電気を消す。ベッド際のスタンドライトを調整して光を緩くした。
「……ちっ」
俺は構わず布団を捲って、トールさんを壁の方へ押しやる。
「……んぅ?」
「あっち行け」
「あれ……う、頭痛ぁ……」
俺が思いっきり殴ったからな。
「酔って転んで寝てた」
そういう事にしておこう。
「そうだっけ……?」
くそ、酒くせぇ男くせぇ。
俺もうつ伏せに寝て眼鏡を外し、奪った枕を顔に押し付ける。長く息を吐いた。
なんか、疲れた。違う──安堵してる。いつもの場所に戻れた事に。
「……なぁ」
「んー?」
「──あんたが好きだ」
こんな時に言うなんてどうかしてる。でも言いたかった。間違えられたくなかった。あの時──シロちゃんが俺の身体の時、すげぇ嫌だったんだ。
「…………夢?」
「……ぶはっ。そー、夢かも」
夢でいい、どっちでもいい。片目分だけ横を向いてトールさんを見ると、トールさんも片目で俺を見ていた。眠そうな目は、半分夢を見てるせいか。
「……どうしよう」
「は?」
「夢なのに泣きそうだ……」
馬鹿じゃねぇの、とトールさんの頭に手を置いた。さらさらの髪にむかついた。
俺も──泣きそうだ。
「……寝ろ。今日は疲れた」
「えー……ムラムラしてきたんですけどぉ──むぐ、苦しい苦しい」
頭を押さえつけてやってもトールさんは笑っている。
こんな変な奴を好きになるとかどうかしてる。でも、どうとでもなる、とか思う自分がいる事も確かで。
だから、今日はここまで。
「手ぇ出したら叩き出すからな」
おやすみ、と俺は安心する奴の隣で目を瞑るのだった。
「…………ケツ揉むなっつってんだよ」
「ちぇー」
【アレキサンドライト・ロング・デイ──終わり】
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