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第4話 side:S

一方の志童は、キッチンに立つアユムの後ろ姿に恋人のそれを重ねていた。 (アユムくんいいよなあ。サイズ感が、なんか天心なんだよね) 髪色やヘアスタイルは違うけれど、ほっそりした腰まわりや肩の薄さはかなり近いんじゃないかと思う。 後ろから抱きしめた時の感触を想像し、志童はなんだかゾクゾクしてしまった。 (あれあれっ? 俺は何を考えてるんだ……!?) 客と食事に行った恋人を疑っておきながら、自分は別の男の部屋にいるという現実に後ろめたさを覚える。 (いや、アユムくんとはそういうんじゃないからね? けどたぶん、天心にこのことを言う勇気はない……) 言えないならそれはもう、心の浮気を認めざるを得ないような気もした。 「紅茶入れたよ」 アユムが湯気の立つマグカップを手に戻ってくる。 「……ああっ、ありがとう」 「熱いから気をつけてね」 両手でカップをつかみ、眼鏡を曇らせながら紅茶をすする彼は、いかにも無防備でかわいらしかった。 (俺がこんなに浮ついた気持ちでいること、アユムくんは気づいてないんだろうな……) 天心にも後ろめたいし、目の前にいるアユムにも、そんな目で見ることが申し訳ない。 それでも帰りたいとは言い出せなくて、志童は心の中でため息をつきながら目の前の彼を観察していた。 (それにしてもほっぺた、子供みたいできれいだなあ……) 彼の火照った頬に目が行く。 (たぶん童顔の部類なんだろうけれど、肌まできれいってどういうことなんだろう) そのふっくらした頬を、突如ふにふにしたい衝動にかられた。 アユムがカップの縁に口をつけ、ふうっと息を吐き出す。 そして眼鏡の奥の瞳がこっちを向いた時には、志童は斜め向かいにいるアユムににじりより、その頬に触れていた。 「……えっ」 「あっ、ごめん……つい触りたくなっちゃった」 「…………」 紅茶の熱で温まっていた彼の頬が、さらに赤みを増す。 「ホントごめん! こういうのよくないよね」 頬から離した手を床に置くと、床の上で手と手が重なった。 「わああっ、今のはわざとじゃなくて!」 「分かったから落ち着いて」 今度はアユムの方から、やんわりと手を握り返される。 (えっ!?) 「嫌じゃないって思ってる、僕は……」 「待って! それ言っちゃうの? お互いいろいろまずくない!?」 慌てる志童を見つめ、アユムが小さく笑ってみせた。 「違うよ。これ以上を許そうとかじゃなく、手くらいなら握っても問題ないってこと」 「手くらい?」 「うん……」 (あれっ、俺の勘違い?) この距離感をどう受け止めるべきなのか分からない。 幼なじみが常に恋愛対象だった志童には、友達と恋人の境界線が曖昧だった。 小さく華奢な手を見つめて固まっていると、アユムが顔を覗きこんでくる。 「あっ、もしかしてそれ以上も想像しちゃった?」 「しっ! してな……」 いや、今してしまった。 その時、頭上でチカチカと電灯が点滅しだす。 「……!? なに?」 そして次の瞬間、視界が真っ暗になった――。

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