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第15話

「……はぁ……」  頭上から聞こえる満足そうな吐息が耳に届くと、優志はちらりと視線を上げた。端整な顔立ちは今は雄の色香が濃く、愉悦を耐えるように寄せられた眉とその下の閉じられた瞼、薄っすらと開いた唇全てが優志の熱を上げる。  樹の雄を咥えたまま暫しその顔を盗み見る。繋がってしまうと、こんな風に見ていられる余裕なんてなくなるから。だからじっと見つめてしまう。  でも、見過ぎていたのか視線を感じた樹が、掠れた声で名前を呼んだ。 「優志……」  低く抑えられた声音。その声だけでどれ程優志の中の劣情が煽られるのか、知っているのだろうか。 「……いつきさん……」  一層強く吸い上げ、舌先で擦る。夢中でしゃぶり付いていると、不意に腰に熱い手の平が触れた。 「ん……」  腰から白い双丘に樹の手の平は妖しく動き、その中心を指先が掠める。  ただ触れられただけだというのに、そこは期待を滲ませたようにひくつき、内側からは疼くような感覚が広がった。 「……揺れてるぞ、腰……エロいな、優志……」 「…んぁ…!」  乾いた指先が蕾の表面をなぞる、まだ入れて来ないだろうし入れられても痛いだけなのに。それなのに、そこは早くも迎えいれようと言うのか意志とは関係なく蠢いてしまう。 「……もういいよ、優志」 「……え……でも」  顔を上げると、そのまま顎を掴まれた。片方の脇に手を差し入れられ、強引に引き起こされる。  まだ達してない樹の雄芯は優志の唾液と滲み出たカウパーで、てらてらといやらしく光っている。赤黒いそれから目を逸らすと、そっと唇が重なった。 「あ……」  体を引こうにも、背中に回された腕に抱き寄せられ胸が密着する。お互いの高ぶりが当たると、今更なのに羞恥が込み上げてくる。 「……ん、樹さん……」  股間を擦り付けられると、益々羞恥から頬が熱くなる。恥ずかしいのは、見透かされている事がだ。  どう思われてもいいと、さっき思ったばかりなのに。  でも。  頭の中でのそんな葛藤も、後孔に樹の指が侵入してしまえば彼方に追いやられてしまう。 「……ぁんん……いつ、き……さん……」  長い指は弱い所ばかりを攻め立てる。はしたない声も抑える事すら出来ずに、ただ優志は悶えた。 「あ、んん……やぁ、あ……」 「……優志」  優しい声。この声は今だけは自分のものだ、そう思えばこの人が手に入らなくても諦めがつくような気がする。  いや、そう思わないと隣になんて居られない。  抱かれる度に増していく恋慕を、どうやって止めろというのだろうか。止める事など出来ない。  だけど、この恋が成就する訳なんてないから。  だから……。 「樹さん……ん、ほし……樹さんの……」  潤んだ瞳で下から見上げる。優志の熱に応えるように、樹は熱い唇を重ねた。 「……はぁ……樹さん……」  キスの合間も蠢いていた樹の指先は抜かれ、整わない息のままに優志の腰に樹の両手が添えられた。 「……お前、体柔らかいよな……?」 「え……え、い、樹さん……!」  腰に添えられていた手は膝の裏に入り、腰を持ち上げられ思いっきり優志の両足は開脚させらた。 「枕、腰の下に入れるか……」  言うなり優志の腰の下には枕が差し入れる。そうする事でさっきよりも更に腰が浮き、隠しようもなく全てが樹の前に晒された。  今まで散々見られている場所だけれど、この格好は恥ずかしい。  だが、文句を言いたいのに何故か樹は真面目というか難しそうな顔をしている、この場面には相応しくなくて不安になる。 「……樹さん……?」 「いや、お前やっぱり体柔らかいなと思って……まだ曲がるだろ」 「わ……!」  足首を持たれ、胸に膝が付くほどに折り曲げられる。確かに優志の体は柔らかかったが、この体勢はきつい。文句を言いたかったけれど、それよりも先に樹が挿入してきた。 「んん……」  覆い被さるようにして樹が入ってくる。圧倒的な質量に、横になっているにも関わらず眩暈が起こりそうだ。  始めは痛みばかりを感じていた挿入も、今では快楽に変換されている。開発されている、という方が正しいかもしれない。  男なのに、男を受け入れて悦ぶ体。だけど、それは樹が変えたのだ。  樹相手ならそんな事など、些細な事にしか思えなかった。  それ程に優志の想いは深く、熱かった。 「辛いか?」 「……ん、だい、じょうぶ……」  大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか、本当はもうよく分からない。  繋がってしまうと、いつもこうだ。  深くまで刺さっていた硬質な熱は、ゆっくりと入って来た狭い坑道を今度は広げながら出て行こうとする。入り口付近をゆるゆると往復していたかと思うと、急に体重を乗せた重い突きが最奥に届き優志は溜らず甘い声を上げた。 「あぁ……!」  がつがつと力強いピストンが繰り返され、揺さぶられるままに喉からは堪えきれない喘ぎが洩れる。声を抑えたいのに、抑えられない。まるで強請るような甘ったれた声音を聞いていたくなんてないのに。

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