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第16話

「優志……」  名前を呼ばれきらない内にキスが降る。繋がっている場所も、触れられている唇も、合わさる手の平も指先も溶け出してしまいそうだ。幸福感は重い質量となり優志の胸を押し潰す。  樹の腰が動く度に優志のペニスの先端は擦られ、そこから言いようのない快楽が拡がる。腹で擦られ、更に内側からも強い刺激を受け優志は限界に近かった。 「も、だめ……ぁあ……樹さん、いっ……ちゃう……あぁぁぁん、や、だめ……!」  弾けそうだった激流はその手前で無情にも塞き止められてしまった。樹が優志のペニスを握り締めたのだ。 「……いい子だからもう少し我慢しろ」 「……う、ぁん、やぁ……」  優志の瞳から零れ落ちる涙を舌先が掬い上げる。優しい仕草だが、戒めを解く気はないらしく、次いで宥めるようなキスが頬に触れる。幾ら優しいキスが貰えたとしてもこれは酷いと思う。  しっとりと濡れた瞳で睨むように見上げても、余計に樹を煽るだけでその効果は全くの無効だった。  奥深くに入り込んで蹂躙しては引き抜かれる、何度も繰り返されたそれも終わりが近いのか樹の容量が優志の中で増してきた。 「……はぁ、んん……」 「優志……」  握られたままだったペニスの先端を樹の指先が爪弾き、その刺激を受けた後孔は搾り取るように膨張した樹の一物を締め付けた。 「……くっ……」 「あぁぁぁ!」  体の最奥で熱い滾りが弾けると、二人の腹の間にあった優志のペニスからも熱い飛沫が飛び出した。  慌しく上下する胸と息遣いは暫く続き、体の中には快楽の余韻が燻る。 「……はぁ……」  栓の外れた蕾からは吐き出された樹の精液が流れ出る、腹には自分が放ったものもまだ残っていてそれらはゆっくりと引力に従うように体から垂れ落ちていく。  ベッド脇のサイドボードからティッシュの箱を取り上げた樹は、その中から無造作に数枚引き抜くとまだ動けないでいる優志の体を丁寧に拭い始めた。 「あ、樹さん、自分でやるって……」 「いいからよ、寝てろよ……」  穏やかに言いながらも樹の手付きは止まらない。 「……樹さん……」  仰向けから反転して、樹の腰の辺りに擦り寄る。猫のようなその仕草に樹の視線が落ち、顔には柔らかい微笑みが浮かぶ。  伸ばされた指先は上気したままの優志の頬を撫で、首筋に移動すると白い胸元に流れていく。その手はまだ終わらないと言っているようで、優志の体は期待でまた熱を持ち始めた。 「……樹さん……」 「優志……」  合わさった視線はどちらも淫らで、熱を含んでいた。その熱に当てられたような心持で優志は樹に向かい腕を伸ばした。  それが合図だったかのように、熱い抱擁は第2ラウンドの始まりを告げた。   *** 「シャワーありがとう」  シャワーを浴び、寝室へ戻ると新しいシーツに取り替えたベッドに樹は寝転がり雑誌を捲っていた。雑誌は映画情報誌だった、優志はその背表紙に視線を合わせながら樹の好きなアイドルでも載っているのだろうかと首を傾げた。 「あぁ、じゃあ、入ってくるかな……」  樹はベッドから降りると雑誌をサイドボードの上に置き、気怠そうにドアの方へと足を向けた。  入れ違いで優志はベッドに入る。樹を待ってから寝たいが、このまま眠ってしまいそうに体が中も外も怠い。 「お前、バク転とか出来るのか?」 「え?」 「体柔らかいし、何か前にダンスの練習してるって言ってなかったっけ?」 「うん、出来るよ……ダンスもやってるし」 「へー……凄いな」  感心したように言われると照れる。体を動かす事は好きなので、ダンスも色々な技を教えて体得していくのが楽しい。  優志の笑顔を見て樹は意外な事を言った。 「特技だよな、それって」 「……え……?」 「特技だよ、演技だけじゃなくてさ、ダンスも出来るっていうのもお前には武器になるんじゃないかって思うよ」 「……オレの……?」 「あぁ……オーディション、頑張れよ」 「……ありがとう」  今日二度目の応援に胸が熱くなる。  自分の事よりも妹の舞台の方が楽しみなんだろうと思ってた、いや、それには違わないのだろうけれど、それでもこうして気に掛けてくれた事が嬉しい。  体が柔らかいから。その話の流れで思いついただけなのかも知れないけれど。  でも、ダンスはレッスンを受ける度に優志の自信に繋がっているのは確かだ。それを発揮出来る場があれば、レッスンスタジオではなくて小さくてもいいから壇上で、観客の前で踊りたいとは前から思っていた。  特技に出来るかどうかはこれからの優志次第だ。もっともっと練習すれば、もしかしたらいずれは……。  そうなると、いい。  夢が実現出来たらいい。  そしてその時、見てくれる人の中に樹が居たら嬉しい。  優志は密かなる熱意を胸にベッドに横になった。落ちそうだった瞼は樹の言葉に叱咤されたように、上がりっぱなした。  頑張ろう。  何が出来るのかはまだ分からないけれど。  だから今は目の前のチャンスを一つ一つ確実に掴んで行きたい。  自分の為に、応援してくれる樹の為にも。  ありがとうと、また言えるように。笑顔で樹の隣に並ぶために。

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