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第22話

「……どうしてオレを連れて行ったの……?」 「何だ、怒っているのか?」 「……そうじゃないけど……」  ホールから出ると、時間は21時半を過ぎていた。この後の予定は約束していない、だからここでお別れだと思っていたが、樹は優志を部屋に誘ってきた。  電車に乗り同じ場所に二人で帰るなんて事初めてで、それだけの事にも優志の胸は躍った。  樹のマンションのある駅で降りると、並んで夜道を歩いた。そんな時だった、些細な会話が途切れた時を見計らい優志は心に引っかかっていた原因を樹に尋ねた。 「……お前なら、喜美香を選んだりしないと思ったからな……」 「……オレじゃない人だと、喜美香さんを選ぶ?」  その質問に樹は苦笑いを浮かべた。そして以前あったのだと言って、優志の知らない過去を教えてくれた。 「前にな、クリスマスじゃなかったけど、やっぱりコンサートのチケットを送って来た時があったんだ、当時付き合っていた訳じゃないけれど気に入っていた子がいてな……その子と一緒にコンサートに行って今日みたいに帰りに控え室に寄ったんだよ」  樹が話す度に白い息が舞う。街灯に照らされた夜道は決して明るくはなかったが、優志には樹の所だけが輝いて見えた。 「まんまと喜美香に獲られたよ、可愛い女の子でなー……お前と同じ位の歳だったかな」 「アイドル……?三月ちゃんのお友達とか?」  可愛いという単語に思わず樹の妹、三月の存在が頭に浮かび咄嗟に聞いてしまった。 「いやそうじゃない、芸能関係ではなかったんだけどさ……」 「ふぅん……」  それが悔しくて、今度はオレを連れて行ったって訳だ。  樹にはどうして喜美香がその女の子を獲ったかなんて分からないだろう。まだ喜美香には想いが残っているからなんて、きっと想像もしていないのだから。 「……やっぱり怒ってるんじゃないか」 「怒ってないけどさ……」  期待してしまうではないか。あんな事を言われては、あり得ない事だと分かっていても、それでも0、01%でも確立があるのなら。 「……恋人を連れて行けば良かったのに」 「いないって、知ってるだろ?」  知っているというか、聞いた事はあったけどそれから大分時間が経っているから直近では知らないも同然だ。 「……オレで良かった?」 「あぁ、ありがとうな」 「……ん……」 「あ、でも……」 「ん?」 「お前には悪い事したな、勝手に恋人役をやらせてしまって……」 「そんな事ないけど……」  このまま言えたらどんなに良いだろうか、あなたが好きだと。  だけど、それは今の関係を壊す事に他ならない。会って貰えなくなるのなら、このままの関係を続けた方がずっといい。 「……オレの恋人って役を演じたと思えばどうってことないか……」 「……うん……」  上手く笑えているだろうか。本当は演技なんかじゃなくて、本物の恋人になりたい。  ずっと側にいて、好きだと素直に言える関係になりたい。  マンションに着いたのは23時近かった。部屋の中は寒かったけれど、それでもこの部屋は優志にとって温かい場所だった。  リビングに通され、ソファーに座る。エアコンのスイッチを直ぐに入れてくれ熱風が吹き出し、徐々に室温が上がっていく。 「優志、腹は減ってないか?」 「うん……オレは大丈夫だけど…」 「何か小腹が減ったんだよなー……コンビニ寄って来るんだったな……お前が食えばデリバリーでも頼むんだけど」 「オレ少しなら食べるよ、何頼むの?」 「ピザでも頼むか、今日ならサンタの格好で来るぞ」 「え?そうなの?!」  優志が驚いた声で聞き返す。それは知らなかった。 「なんだ、サンタ見たいのか?」 「うん、見たい」 「じゃあ、ピザにするか……」  キッチンに行ってちらしを取って来た樹と一緒にクリスマスピザセットなるものを頼み、来るまでの間樹は着替えてくると言って寝室へ行ってしまった。  一人になった優志は何時どのタイミングでプレゼントを渡そうかと悩み出した。  会った時にでも渡せば良かったのだろうか。でも、それでは荷物を持たせる事になりかねないと思って渡せなかったのだ。  じゃあ、ピザが来る前に……そうだ、ピザと一緒に飲んでもらえばいいのだ。それはいい考えかもしれない。  あ!でも、冷えてないや……いいのかな、ワインて常温でも……。  どうしよう、ワインセラーとかこの部屋あったのかな……?  持って来てしまったので渡すしかないのだが、今更な悩みが出てきてしまい困った。 「優志、お前も着替えるか?スーツじゃあ窮屈だろ」  リビングに戻ってきた樹はセーターにジーパンというラフな格好になっていた。さっきまでのスーツ姿もカッコいいけど、見慣れたこの格好の方が優志は好きだった。 「あ、うん……」  でも、服がないんだけど……。  優志の言いたい事が伝わったのか、樹は満面の笑みで紙袋を手渡してきた。 「これ、着て来い」 「……え……?」 「プレゼントだ」 「……え!!オレに?!」 「あぁ……寝室行って着替えて来い、待ってるから」 「う、うん……ありがとう、樹さん!」  手渡された紙袋をしっかりと抱え、優志は言われるままに寝室へ入っていった。

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