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第23話

 まさか樹もプレゼントを用意してくれているとは思わなかった。嬉しさで頬が緩んできてしまう、締りのない顔を見られないのは良かった。  早速紙袋を開くと、赤色が見えた。真っ赤な服はシャツか何かだろうか、でも、素材的に違う気がするんだけど。  首を傾げながら引っ張りだすと、それは確かに服だった。 「……え?」  赤色のスウェードに襟と袖口、裾には白いふわふわとしたボア付きのそれは見間違いでなければサンタ服だ。そして一緒に履けというのか、黒のニーハイソックスも入っていた。 「……あのド変態が……!」  服を持ったまま引き千切ってしまおうかと思った優志だったが、折角の樹からのプレゼントだ。少し冷静になろうと、もう一度服を確認した。  赤い半纏……にしては、派手すぎる……よね……。  何度どこから見てもサンタ服はサンタ服にしか見えず、優志はがっくりと項垂れた。  でも待ってるって言ってたし、樹はきっとこれを自分に着て欲しいのだ。女の子じゃないのに、こんな服着ても可愛くないのにな……。  どうしよう、リビングに行ったらトナカイの着ぐるみ着た樹さんが待ってたら……。  ぶんぶんと首を振り、嫌な想像を追い払う。多分、これを着て来いって事なんだとは思うけれど、着る勇気がなかなか持てない。  とりあえず、自分の丈に合うのかと肩の高さに服を合わせてみると、裾は膝よりも高い場所にあってしゃがめばパンツが丸見えになってしまいそうな長さだ。 「……樹さん……これは……オレ着たらキモイと思うんだけど……」  着た自分を想像して自分に引く。だめだ、やっぱりこれは無理だよぉぉぉ……。 「あ!でも……!」  ふと閃いたのは、これを着てプレゼントを渡したらどうかという案だ。  いや、別にスーツのまま渡してもいいんだけど、サンタコスで渡すのって樹さん喜んでくれそう…。 「でも……」  どうする、オレ…!  悶々と悩み、結局優志が選んだ選択肢はサンタ服を着る、というものだった。  ……だって、やっぱり樹さんのプレゼントを断る訳にはいかないもん……。  だが、着ると決めたは良いが、どこまで脱いでこれを着たらいいのかが分からない。  スラックスは脱ぐとして、上はどうしよう。やっぱり裸の上にサンタ服なのかな?どうしよ……寒い?でも、暖房付いてるし……どうしよー……! 「優志ー、ピザ届いたぞー!」 「え?!はーい、今行くー!」  優志は半ばヤケになって着ていたシャツを脱ぎ、サンタ服に着替え始めた。 *** 「……入るよ……」 「あぁ、遅いぞ、もう配達のサンタ帰ったぞ」 「……う……見たかった……でも、代わりのサンタが来たよぉ……」  恥ずかしい。でも恥ずかしがれば余計に樹を喜ばせるだけだと思い、優志は平静を装いリビングの扉を開けた。 「……」  やや俯き加減で部屋に入ってきた優志に樹の視線が向かう。何もリアクションがないのは、それはそれで寂しい。折角着てきたのだからリアクション芸人顔負けの返しがあると助かるのだが、何もないのだろうか。  ちらりと樹を見ると、ばっちり目が合ってしまったので、優志はすぐさま目を逸らしてしまった。  だってガン見してるんだもん、恥ずかしいよ……。 「あ、あのね、樹さん」 「ん?」  ソファーの端っこに座り、樹と距離を置く。ソファーの後ろに置いておいた紙袋を取り上げ、まず膝の上に置いた。 「……あのね、これ、サンタからプレゼント」 「プレゼント?」  サンタからって何だよ、と自分に突っ込みを入れたい。でも、樹はただ笑っているだけで突っ込んだりなどしてこないから、困る。 「うん……はい、メリークリスマス」 「……ありがとう」  紙袋を渡すと、樹は笑みを深めた。眼鏡の奥の瞳が細まり、目尻に小さな皺が浮かぶ。その一つ一つを撫でたいと思った。  錯覚だと分かるけれど、とても愛しいものを見ているような瞳に見えるのだ。いや、でもサンタ服を愛しんでいるとしたらとんだ変態だ。きっと目の錯覚だ。 「……ワインか、嬉しいな、ありがとう……優志」 「……飲める?」 「あぁ、いい酒選んでくれたな」  ワインの一本を手に取り、銘柄を確認するように樹が言う。 「……良かった……」  優志は心底ほっとした。選んでくれた店員にも感謝だ、沢山のワインの中から選んでくれたのだから。  樹は早速飲もうと言うと、キッチンからワイングラスを二つ持ってきた。今日ばかりは無礼講だ、樹に付き合おうとグラスに手を伸ばした。 「サンタさんが飲んだら飲酒運転になるのかな?」 「はは、大丈夫だろ、トナカイが飲んでる訳じゃないんだから」 「そっか……」  赤い液体を注いだグラスを傾け合い乾杯する。鼻先に持っていったグラスからは芳醇な酒の香りがして、酒の良し悪しの分からない優志にもそれが上等なものだという事だけは分かった。 「上手いな、やっぱり」  口の中に広がったのは、深く染み渡るような濃い赤ワインの味。いまいち美味しいのかどうかは分からないが、飲めない事はないので優志は頷くだけに留めた。  酒を飲みながら、合間にピザも食べる。口当たりの良いワインだったので、グラスはどんどん空になり、そして注ぎ足され気付けば二人で1本と半分程空けていた。 「……ふぁぁ……」 「眠いなら、ベッド行っていいぞ」 「ん、眠くない、よぉ……」  だけど、頭の中がくるくると回っているようだ、それに座っているのにふわふわと浮遊感があるのはどうした事か。 「……はぁ、何か熱い……」 「お前、顔真っ赤だぞ……」  ちょっと呆れた樹の声が直ぐ隣でする。何時の間にこんなに近くに座ったのだろう、覚えてない。 「……樹さん、オレ、サンタ似合う?」 「……あぁ、似合うよ」  樹は苦笑いだ。子供をあやすように、優志の頭をポンポンと叩く。 「ほら、もう寝た方がいいぞ……」 「ん……やだ、樹さんと一緒に……」 「優志……」  困ったような樹の声だ。何で困るんだろう、ちゃんと自分の足でベッドまで行けるのに。 「樹さん……一緒にベッドいこ……?」  手を伸ばし樹の胸に抱きつく、抱きしめてはくれなかったが仕方ないというようなため息が頭上で聞こえた。 「……サンタは酒癖が悪いな……」  クスクスと笑う声は苦笑いとも自嘲とも取れた。

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