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第36話

 テレビを見ていると樹のスマホが着信を告げた。ダーツの最新曲がワンフレーズ鳴ったところで樹はスマートフォンを取った。 「はい」 「お兄ちゃん、テレビテレビ!!!!!!!」 「なにをそんなに慌ててるんだ?テレビがどうかしたのか?」 「優志君出てるよ!!!」 「……あぁ……見てたのか?お前……それなら、今オレも見てる」 「そうなの?!あ、優志君から聞いてたの??もー、教えてくれてもいいじゃない!!あ、優志君出た!じゃあ、またね!」 「……あぁ」  どうやら美月も同じ番組を見ていたらしい。そういえば、この間美月が見ていた雑誌は特撮番組に出ている俳優を主に扱ったものだったと思い出す。この番組もチェックしているという事か。 「美月ちゃん?」 「あぁ、優志が出ているからって電話を掛けてきたみたいだ……」 「美月ちゃんもこれ見てるんだ」 「……そうみたいだな……」  まさか美月の趣味の話は出来ないので、樹は頷くだけに留めた。  優志とて今までドラマに出た事が無いわけではない、それを美月だって知っている筈だ。  他の番組だっら優志が出ていたとしても、リアルタイムでわざわざ電話を掛けてはこなかっただろう、この前出ていたね、位の話題で済む筈だ。  今回は特撮番組だったからだろう。 「戦隊のピンクってダーツじゃないけど、他のアイドルグループの女の子だもんね、気になるのかな」 「……そうだな、そうかもしれないな」  純然たる趣味だ、とは言えない。優志が勘違いするなら勝手に勘違いして貰っていた方がいいだろう。  優志扮する怪人が戦隊5人を相手に戦うシーン、子供番組ではあるが爆発シーンなどもあり中々迫力がある。  今回は怪人と戦隊ピンクの恋話だ。怪人が改心し恋に落ちたと見せかけて、戦隊基地に攻撃をしかけようとするという展開だ。しかし、戦隊レッドの機転により怪人の罠がばれ倒されるという話だ。  内容はパターン化されているように、怪人が一度倒され巨大化して戦隊ロボの必殺攻撃で完璧に倒されるのだが、子供番組と侮れない面白さだった。 「久しぶりに見たが面白かったな」 「うん、今回のシリーズは特に人気が高いんだ、前に話した「アクターズ」っていう舞台に出てた俳優も出てるし、ピンクもアイドルだしイエローの女の子もグラドルだしね」 「そうなのか……」 「うん……オレね、この戦隊のオーディション受けてたんだ……まぁ、落ちたんだけどさ……今回は代役で急遽撮影に入ったけどすっごく勉強になったんだ、すっごく楽しかった!」  本当に楽しそうに話す優志の顔を見つめ、樹は眩しそうに目を細める。夢に向かって一歩一歩着実に進む優志が少しだけ羨ましいと思った。 「代役だけど、ホント出れて良かった……最近ね、少しずつだけど仕事増えてるんだ……今度深夜ドラマだけどね、端役だけどちゃんと役名のある役貰えたし……」 「そうか、じゃあまた見ないとな」 「見てくれる?!」 「あぁ、応援すると言っただろう?」 「……うん、オレ頑張るね……!」  嬉しそうに優志が笑う。  その笑顔に胸の中が熱くなる、それは一種の衝動。 「……!」  体が動くままに樹は優志の唇を奪った。吃驚したように目を見開いた優志だったが、直ぐに瞼を落とし樹の唇を素直に受け入れた。  優志の背中に腕を伸ばし、温かい体を抱きしめる。背中を擦り、その手を腰から腿へと移す。下着しか着けていないので白い腿が露だ、すべやかな内腿に手を這わせると優志は腰を逃がした。 「……ここじゃ、嫌か?」  瞳を覗き込むようにして聞くと、頬を赤らめ優志が頷く。何度も体を重ねているというのに、いまだこんな初心な態度を見せる。演技なのではと疑った事もあったが、内気な面もある優志なのでいまだ恥ずかしいのだろう。 「ベッド、行こうか」  逸らさずに見つめれば、優志は頷いたままに樹の胸の中に縋るように抱きついてきた。  ぎゅっと互いを抱擁を交わすと、その熱がシンクロする。  二人は先を急ぐようにして寝室へ移動した。 ***  寝室の床には二人分の服と下着が脱いだままに散乱している。ベッドへ入るなり、性急に求め合い、夢中で互いの熱を高め合った。 「……樹さん……」  開かれた瞳は薄っすらと水の幕を張り、視線に媚を含ませ樹を真っ直ぐに見つめる。  樹がゴムをつけ、このまま挿れてくれるものだと思っていると、上体を起こしたままで樹は動こうとしない。 「樹さん……?」 「優志、上に乗ってみろよ、出来るだろ?」 「え……??」 「ほら、場所交換」 「え?!」  戸惑った表情を浮かべながらも、言われるままに優志は樹と位置を交換する。ベッドに横たわった樹の横で、優志はどうしたものかと思案するような顔付きで黙り込んだ。 「優志」 「……樹さんが下やるの?」 「下、っていうか、まぁ、そうだな」 「お、おれが……樹さんを抱くの?」 「は?」  樹は慌てて上体を起こす。優志が勘違いしている事を悟ったからだ、このままでは掘られてしまうという危機感が樹の身体を跳ね起こした。 「優志、騎乗位って知ってるか?」 「きじょうい……き、あ、あぁ……!うん、あ、え?う、上に……??」 「そう」 「……う、うん……」  躊躇いを見せたのは羞恥のせいだ。上気して赤くなっていた頬が益々赤味を帯びる。  だが素直に頷くと、優志はぎこちない動きで樹の腹の上辺りに跨り、後を気にしながら腰を落としていった。 「初めてか?」 「……うん…出来るか分かんないよ……」 「いいよ、手伝ってやるから」 「ん……」  優志の腰を掴み後穴に宛がってやる。躊躇いがちに腰を落としていく優志の顔は、羞恥というより若干不安そうだ。 「大丈夫だから」 「……うん……」  掴んでいた腰を優しく撫で、負担が掛からないように樹はその手に力を込めた。

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