58 / 76

第55話

 シャンプーの甘い香りが浴室内に広がる。フローラルな香りは明らかに女性用と思われる。だが優志は妙に納得していた。  だってこのシャンプー、ダーツがCMしてたもん……。 「かゆいところはありませんか?」  「……ないです」  しゃかしゃかと洗われながらそんな事を聞かれる。笑ってしまいそうになるのをどうにか堪え、優志は答えた。  全体を洗われ、泡を落とされると今度はトリートメントを施された。それが終わり、タオルで髪を拭かれると何だか小さな子供に戻ったみたいだ。  美容室で髪を洗われる、というよりも、兄に髪を洗われていた小さい頃を思い出す。 「じゃあ、体もな」 「うん……あの、オレも洗うよ」 「じゃあ、洗いっこしようか」 「うん……じゃあ、樹さん、背中向いて…」 「あぁ、頼む」  自分よりも広い背中をごしごしと泡で埋めていく。日に当たらないせいかその背中は白い、それが泡で見えなくなると今度は腕を取りタオルで優しく洗っていく。 「何だ、全部洗ってくれるのか?」 「……うん」  恥ずかしがったら負けだ。そう思いながら優志は正面から向き合うように座りなおした樹の胸にタオルを当て、首筋へと泡を拡げて行く。  ごしごしと上から下へ。何も隠すもののない股間のそれはまだ反応していないようだが、どうしても視線が行ってしまうのを止められない。 「……ぁ」   洗う事に集中していたので、突然の樹の手の動きに優志は驚きの声を上げた。いつの間にか石鹸で作った泡を手の平に乗せ、それを優志の脇辺りに滑らせながら洗っている。 「いつきさん……」 「手が止まってるぞ、くすぐったいか?」 「……あ、や……んん……」  それならばと樹の手は胸の突起を掠める。石鹸の泡を乳首に付けるように、摘むようにして洗う。洗っているのか、摘まれているのか分からないその指の動きに翻弄されるように、そこは固く芯を持つ。 「両方洗わないとな」 「ふ……ぅん……」  まだ下を向いている優志には楽しそうに口角を上げ、獲物を見つけた獣のように目を細めている樹の顔は見えない。その代わり自分のそそり立つ欲望が目に入り、羞恥に益々顔が赤くなる。  片方だけ摘まれたままで、樹の手の平は腹から脇へと移動していく。ぬるぬると滑るように脇を掠め、そこから腿へと降りる。 「泡が足りないな……ボディーソープの方が泡立つな……」  石鹸ではなく今度は棚からボディーソープを手に取り、先程よりも大きな泡を作り優志の体の表面を撫でるようにして洗っていく。ボディーソープもシャンプーと同じシリーズのようだ。同系列の香りが風呂場を満たす。  腿から膝へ、ふくらはぎから足首へ、そこから足の指までぬるぬるとした泡を作りながら樹の手の平が滑る。  両足をマッサージされるように洗うと、樹はその手を止め優志に向かいにやりと笑んだ。 「また手が止まってるぞ」 「……だ、だって、樹さんが……」 「オレが?」 「……今度はオレが洗う……」 「でも、まだだ……」 「え……?」 「まだ、だったな、ここは」 「!」  ここ、と言いながら樹の手は優志の中心を掴む。上下に扱くように洗われると、そこはむくりと頭を擡げ、質量を増していく。  すっかり天を向いたそれは泡と混じりながら透明な粘液を流す。 「あ、もぅ……樹、さん……」 「洗ってくれないのか?優志……」 「う……あ、洗うから、止めて……」 「洗ってるだけだろ?」  扱いているの間違いじゃないだろうか、口に出さずに抗議するように睨みつけるが、樹は痛くも痒くもないと言うようにくいっと片眉を器用に上げて見せた。  腰が震えてしまうのを懸命に押さえ込み、優志は泡の付いたタオルを樹の胸へと当てる。だが、洗うには程遠いような動きしか出来ず、悔しさが募る。 「樹さん……ずるい……」 「ずるくないよ……」 「ぁあん……や、だめぇ……」 「……仕方ないな……」  言葉通り、樹は泡だらけの優志から手を放す。ほらこれで洗えるだろ、という顔で見てくる樹の体をふらつきながらも健気に洗っていく。   散々弄られ高められ限界近くで放置されたままなので辛いが、洗うと言ったのは自分だ。優志は樹の胸や腹、そして樹がしたように足を洗い、最後に少し上向いてきた中心を手の平でそっと包んだ。  ぬるりとした泡で扱けばそこはむくむくと大きさを増し、芯を持ったように硬くなった。 「お湯、掛けるぞ」 「あ……」  肩からシャワーのお湯が掛かり、優志の体から白い泡を落としてゆく。急所を握られているというのに、余裕だ。ちょっと悔しい。  ぎゅっと握り込むと、樹が体を固くした。 「おい、握りつぶす気か?」 「……だって、何かずるい……」  もう完勃した樹から手を放すと、優志の体から泡が落ちきったのを見て樹は自分の体にもシャワーを掛けた。 「……樹さん」 「ん?お?」  手を放したのに、また優志は樹を掴み、赤黒く隆起したそれの先端を指先で円を描くように捏ねる。 「……舐めてもいい……?」 「……いいけど……いいのか?」 「なにが?」 「お前だって触って欲しいんだろ?」 「……ん、でも……樹さんの舐めたいんだもん……」  ふっと笑った顔はベッドで見せる雄の顔ではなく、優しく飾らない表情で優志の頭を撫でた。そのまま引き寄せられ抱きしめられる。  密着する体はお湯の為か、それとも行為の為でか熱を持ったように熱い。はぁ、と一息付き樹を見上げるとゆっくりと影が落ち、唇を塞がれる。顎が触れ合うといつもと違い、髭の感触がして何だかヘンな感じがした。

ともだちにシェアしよう!