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第28話

「本当に飲んでないのか?」  ひやりと冷たいタイルの感触を背中に感じ、腕に鳥肌が立つ。だけど嫌だとは言えないままに優志は樹に押し倒された。そこで漸く、ドアは閉まったけど樹は出て行かなかった、ドアだけ閉めたのかと思い当たった。 「……うん……ふぅ、んん……な、んで?」  さっきも同じ質問を受けた、優志が疑問に思うのは当然だろう。  真上から見下ろしてくる樹は愉しそうに口角を上げ、優志の着ているエプロンのフリルを一撫でした。 「……酔ってもいないのに裸エプロンなんてな……どうしたのかと思ってさ……」 「……」  樹はスーツの上着を脱ぎネクタイは外したのか、今は薄いブルーのシャツとグレーのスラックス姿だ。そして今日はコンタクトでも入れているのか、眼鏡は掛けていない。  シャツの隙間から覗く鎖骨が間近にあり、優志はそこに視線を向けた。顔を見ていたい気もするが、恥ずかしくてまともに見られないのだ。 「でも、さっすがモデルだな、何着ても似合う」 「……それは褒め言葉なの?」 「もちろん」  愉しそうな顔が近付き焦点が合わなくなると、乾燥した柔らかい唇が触れた。まだそこは外気が残っているようで少しだけ冷たい。 「……樹さん……」 「下は穿いてんのか……」  腰を擦った手の動きといい呟きといい残念そうだ、でもそれは仕方ないだろう。流石に丸裸のままという訳にはいかない。 「樹さん、ちょっと……」 「ん?」  エプロンの布地の下、胸元に手を差し入れてきた樹を制するように腕を伸ばし押しやると、優志は上体を起こそうとした。 「脱ぐ……」 「は?」 「……だから、エプロン……」 「どうして?折角着たんだからいいじゃないか」 「……だって……」 「だって?自分から着たのに?」  羞恥心を煽られるような台詞に、優志の体温は簡単に上がる。再び顔を赤くした優志の肩を優しく押し、元の体勢に戻すと宥めるような優しい手が頭をふわりと撫でる。 「優志」  からかいを含まない声音は優志の心にするっと入り込む、本当にこの人はズルイ。次に続いた言葉には同意しかねたが、優志はエプロンを外すのを諦めた。 「お前、男のロマンを理解してるなぁ……」  サンタの時は羽織っていただけだったが、今回はエプロンだ、着けたままの方が遣り難いと思うのに樹は背中で結んであるリボンを緩めようとせずに行為を続けた。  胸元に入り込んだ指先は器用に突起を探し当て、指の腹で擦り押し潰される。いつもだったらそこを口に含まれるのに、今日は素肌が見えている肩や腕ばかりを舐められ吸い上げられ痕を付けられた。首筋や鎖骨など見える所へはあまり痕を付けたりはしない、一応気を使ってくれているらしい。 「……はぁ……」 「キッチンがいいのか?それともエプロンが気に入っている?」  空いている手がエプロンの上から優志の股間を掠める。まだ胸を弄られただけなのにそこは一目見て分かる程に膨らみ、布地を押し上げていた。 「……ぁ」 「優志って羞恥プレイ好きだよなぁ……」 「な、ぁん……」   きつく摘まれた乳首は、痛みよりも甘い疼きが勝り体の自由を奪われた。  エプロンごと扱かれそこはどんどんと質量を増し、角度を変えていく。樹の手を払い退けたいのにそれもままならない。 窮屈な上にそこが湿ってきたのが自分でも分かる、なのに樹は手を緩めようともせずに緩急をつけ優志を翻弄する。 「や、め、も……樹さん……!」 「……あぁ……代えのパンツないのか……」  樹の手が離れた頃には、優志の息はすっかりと上がりエプロンの前には薄っすらと染みが出来ていた。  優志が羞恥プレイが好きなのではなく、樹がそういう変態染みたプレイが好きなだけだと抗議したい。貰ったばかりのエプロンに着いた恥ずかしい染みに優志の瞳がじわりと滲む。 「も、止めてって、言ったのに……」 「……止めて欲しかった……?」  苦笑を浮かべているが樹の目にあるのは加虐を楽しむそれだ。  樹の手がエプロンの下のボクサーパンツに掛かかったので、優志は腰を浮かせた。するりと脱がされたそれにはやはり染みが出来ている。  「洗濯機貸してやるから後で洗えよ」 「……」  そういう問題ではない。じとっと睨みつけても樹は余裕の笑みを浮かべるだけだ。パンツは脱がしてくれても、エプロンは外すつもりはないようだ。  今度は裾の下に手を入れて腿やその内側を手の平が撫で回す。さわさわと移動した手の平は袋を揉み、茎を覆うようにして扱き始めた。 「……ん、はぁ……いっ!」  扱かれたペニスばかりに気を取られていたら、急に胸に痛みが走った。見るまでもなく樹が乳首に噛み付いたのだと分かる、勿論エプロンの上から。 「痛かったか?悪い、悪い」  ちっとも悪く思ってないような声音だ。そのまま布地ごとまた樹は乳首に噛み付いたが、今度は加減しているのか痛みは感じなかった。  だが吸い付かれる度に布に乳首が擦られる慣れない感触に、微かな痛みと、そして小さな疼くような感覚を覚える。それは良く知った快楽で、忽ち優志の口からは熱っぽい喘ぎが零れ始めた。 「……ん、あん……ん……」  ペニスの先端を執拗に弄られ、空いている手もエプロンの胸元から忍び込み、吸っていない方の乳首を苛めだす。抑えきれない快楽が三方から寄せ、優志は限界を迎えた。 「んぅ……!」  樹は手の中で弾けた優志のものをそのまま流すようにして、尻の狭間に塗りたくった。生温かい精液はぐちょぐちょという音を立てながら、出した本人の体内に収められていく。 「……ん、んん……」  樹の指が優志の中に入ってきたと思ったら、それは直に抜かれた。そのまま解して、挿入されるものと思っていたのに樹は何も言わずに立ち上がった。 「……樹さん……?」  中途半端に放置されてしまった優志は熱のやり場に困った。肘を付いて上体を起こし樹を見上げると、キッチンの備え付けの棚を開け何かを探しているようだ。 「あった」 「?」  数歩で優志の所に戻った樹の手には、瓶のような物が握られていた。 「樹さん?」 「ローションになるものがないかと思ってな」 「……ローション……」  見ればそれはオリーブオイルだった。確かに潤滑油にはなるかもしれないが、出来れば寝室に行ってローションを取って来て欲しかった、いや、寧ろ自分としては寝室に行きたかった。 「でも、それ……」 「サラダ油よりはいいだろ?何となく」 「……でも」 「マヨネーズとかバターって選択肢もあるけど、どうする?」 「え、やだよ!マヨネーズとか無理だよ!」 「じゃあ、これでいいな」 「え……?!わ……!」  樹はしゃがみ込むなり優志の両足を持ち上げ、自分の肩に担ぎ上げてしまった。ぺろりと捲れたエプロンの下からは、達ったばかりなのに復活を始めたペニスが顔を出す。  全てを曝け出すような格好に羞恥心は煽られるが、樹はそれも分かっててやっているのだ。愉しそうな顔で優志の顔を見下ろしていた。 「垂らすぞ」  断りを入れると、直に秘所にとろりとした冷たい液体が落ちてきた。黄色に近い黄緑色の透明な液体で濡らされたそこに、樹の長い指がゆっくりと沈む。  優志に見えるようにわざと上体を倒し気味にして、指を2本に増やし中を擽る。背中は冷たいのに、顔は火が出そうな程熱い。逸らした頬がキッチンのタイルに当たるとひやりとして気持ちよかった。 「……はぁ……ぁ、んん……」  くちゅくちゅと音を立て沈めては引き出される指先は、中に入ると優志の感じる場所を探るようにして動く。第二間接で折り曲げて擦ったり、奥を目指して伸ばされたり、樹の与える刺激に優志の体は否が応でも熱を高められていく。 「ぁあ……!」  見つけたとばかりに樹は優志の反応した箇所ばかりを攻め立てた。そこを強く押し上げられる度に自分のペニスが膨らみを増し、快楽に濡れていくのを見ずとも実感していた。 「気持ちよさそうだな、優志……」  その声に目線だけを上げれば、目を細め愉悦に満ちた笑みを浮かべる樹の顔が見えた。小動物を甚振る肉食獣のような瞳は、獲物を捕らえた時のように鋭く光り、口元に浮かんだ笑みは壮絶な雄の色香を醸し出していた。

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