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第10話

 バイトが終わりロッカーで着替えていると、珍しく樹から着信が入った。 「今日来るか?」  短い誘いに優志は迷う事無く即答する。誘われる事なんて滅多にない、それに会いたかったから。  願いが通じたのかと思う程で、優志は電話を切ると手早く着替えバイト先を後にした。  前回会ったのは先々週だから二週間程会っていなかった。別に恋人でも友達でもないのだから会わなくても不思議はない。  だけどこの関係は、どちらかが連絡を絶てば直ぐに終わってしまうような脆い糸でしか繋がっていない。  いつも連絡を入れるのは優志だ。気まぐれを起こしてくれないと樹からの連絡なんてない、だからこれは僥倖といったって良い。大袈裟ではなく、優志にとってみればそれが全てなのだから。 *** 「……樹さん……?」  グラスを持てと勧められ仕方なく片手を出す。何の変哲もない透明なグラスを渡されそれを握るが、優志の不安そうな瞳の先には見たくもない一升瓶の姿があった。 「どうした?好きだろ?」 「……でも、オレ禁酒してるし」 「お前前回飲んだのはいつだ?」 「………それは………」 「ん?」 「……きのう……」 「それは禁酒してるって言わないだろ」  眼鏡の奥の瞳が細められ、可笑しそうに樹が笑う。そして、優志が持つグラスに波々と日本酒を注ぎいれた。  貰った日本酒があるからと言って取り出してきたのは、酒に詳しくない優志でも知っている有名な銘柄だった。  部屋に来られたのは幸運だと思っていたのに、やはり裏があるのだろうか。いや、別に樹に裏があるとかそんな事は思ってないが。裏というよりも落とし穴だ。 「日本酒だめだったっけ?」 「……そんな事はないけど……」  というか、酒と名の付くものなら何だって好きだ。ただ、強い訳ではない、飲むのが好きなだけで。弱いのを自覚しろと言われたばかりなのに。  波々と注がれたグラスに視線を落とす、が、やはりこれを飲むのは躊躇われる。 「あぁ、大丈夫だ、酒飲ますんだからこのまま帰れなんて言わないよ、泊まってけ、それならいいだろ?」 「……う、それは……」 「一人で飲むのもつまんないんだよ、付き合ってくれよ、優志」 「……じゃあ、ちょっとだけ……」  そう言って口を着けたが最後、ちょっとで済む訳がないと知っていたのは優志ではなく樹の方だった。 ***  頭がくらくらするし、顔中がものすごく熱い。顔だけじゃなくて体中かもしれない……横になっているというのに、ふわふわと柔らかく安定しない所にいるみたいだ。 「ぁあ……」 「大丈夫か?優志」 「……ぅ、ん……はぁ……樹さぁん……ん、あ、あん……!」  体中どこもかしこも熱いと思ったけれど、それは錯覚かもしれない。一番熱いのは体の奥だ、樹が入り込んだその奥の奥だ。 「あ、やぁ、だめ、いつきさん……!」  ベッドが軋んだ音を上げる度に体の奥まった所に甘い衝撃が走る。シーツを握り締めて優志は止め処ない喘ぎを吐き出す。こんな声、上げたくないのに止まらない。  腰を掴まれて後からガツガツと容赦なく穿たれる熱塊を、体の一番奥まった所で感じる。  痛みなどとうに消え樹を咥え込む粘膜と坑道と、擦り付けられる肉壁全てに快楽が染み込む。強い愉悦は長く尾を引く余韻を残し優志の体を蝕んだ。 「ん、あ、あん!」  背後に感じる荒い息遣い、大きな手が腰を掴む感触、体内を蹂躙してくる圧倒的な熱量に細胞の一つ一つが喜ぶ。 「樹、さん……はぁ……ぁあ!」  声が抑えられない。涙なのか汗なのか分からない水滴が顎から零れるのが、流れる感触で分かる。  自分の恥ずかしい声なんて聞きたくないのに、甘ったれた嬌声は自制出来ずに喉から溢れる。まるで娼婦が客に媚を売っているような声だ。  どうしてか抑えられない。  どうしてか、体がいつもより熱い。  なんでこうして樹とセックスしているのか分からずに、ただただ優志は声を上げる。

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