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第8話
「……樹さん」
「優志」
股間から腿の間を撫でていた指先は徐々に降り、優志の秘部へと伸ばされた。優志が放ったものが垂れたのと、樹の手に付いていたものを撫で付けるようにその周りを回ってから、慣らすような動きで入り口の中へ入る。
体内に侵入した樹の指はゆっくりと進み、探るように中を動き直ぐに引き返すように出口に向かった。完全に出ないところでまた中へと入り、入り口付近で出入りを繰り返す。
「……ん、あ……ぅうん」
動きに慣れてきた頃を見計らい、樹は指の数を増やす。二本目を入れると、奥で指先を曲げ優志の感じる場所を突付くように押し上げた。
「あぁっ!」
背を撓らせ優志が悶える。指はそのままに、もう片方の手はまた擡げ始めた優志自身に添え、手の平で包み込むようにして愛撫を加えていく。
「い、樹さん……」
背中を預けている優志には樹も自分を欲し、欲情してくれているという事がリアルに分かった。背に当たる樹の高ぶりは熱く、十分な硬度を持っていたから。
「……樹さん」
訴えるような目を向けると、樹の顔が近付き潤んだ目元と鼻頭から頬にキスが落ち、最後に唇を強く吸われた。
「……樹さん、もぅ……」
「……じゃあ……体勢……変えられるな」
「う、ん……」
座っていた半身を起こし、床のタイルに手を付いて四つん這いのポーズを取る。樹の手が腰に触れ指が優志の中に入ってくる。
「……んぁ……え…あ、も、持ってきてた、の……?」
「ん?」
「……ローション……?」
くちゅくちゅと中で動く指の動きはスムーズで、さっき入れられた時とは滑りが違う気がする。振り返るとやはり床には見慣れた容器が転がっていた。
……こんな所にまで持ってきて、最初からやる気だったって事じゃん。全くベッドでやる気なかったって事なんだ……。
「あぁ、必要かと思って」
「……ん、うん……そぅ……」
最早突っ込む気力も残っていなかった。頭にはこれからの行為の事しかなく、余裕などないからかもしれない。
指が抜かれると途端に期待感が高まる。もう十分焦らされたから余計だ。
腰に当てられた樹の手に力が加わり入り口に熱い塊が触れ、徐々にそこを押し広げるようにして優志の中へ入ってきた。
「……あ、ぅあ……あ」
先端が入ってしまえば後はスムーズだった、痛みも初めだけで慣れればそれが甘い疼きに変わり拡がるように快感へと昇華する。
ゆっくりとした動きで入り口付近を出入りしていたのに、急に最奥目掛けて貫かれ一際大きな声が風呂場に反響した。
「あぁ!!」
樹の手が腰から優志のペニスに伸び、同じようなリズムで竿全体を手の平で擦り上げる。忽ち溢れてきた蜜で先端を指の腹で押し潰すように弄り、爪先で引っ掻く。
「やぁああ……ん、あっ……い……っきさん……あ、んん……いい、よぉ……」
樹から与えられる快楽を貪るように夢中で自らも腰を振った。肉のぶつかりあう音と卑猥な水音、石鹸の香りに混じり微かに雄の匂いがする。もうそろそろ限界かもしれないとぼんやりと優志は思った。
「……いつき、さんは……いい……?きもち、い……?」
「……あぁ、いいよ……優志の中、気持ちいいぞ……」
「ん、あん……うん、オレもぉ……あぅ、ん……ね、も、だめ、あ……」
ラストスパートとばかりにピストンが早まる。上半身がほぼ倒れた格好で腰だけを樹に向け、優志は真っ白になりそうな頭で溺れる人のように喘いだ。
「あ、ん、あぁ……!」
最奥に入り強く擦り上げられた所で優志の雄が弾けた。開放感が体を襲い、そのまま崩れそうになる腰を強い力で引き寄せられると背後から腕が伸び抱きとめられた。
「……はぁ、はぁ……樹、さん……」
「優志……」
「……ん……」
優しいキス、ただ唇を押し当てるだけなのに体の中が幸福で満たされていく。
「……平気か?」
「ん……うん」
頷く前に顎を取られ、濃厚なキスで口の中を支配された。体の中に残る樹はまだ果てていない、そこから拡散していく疼痛のような甘い刺激は健在で早く続きがして欲しい。
ベッドまで待てないんでしょ?
自分で樹に言った言葉をそのままそっくり自分に問いかけてみる。
待てない、よ。
「樹さん……樹さんの……」
「ベッドがいい……?」
「……」
ふるふると首を振れば、体勢を変えるのか一度中から樹自身が引き抜かれる。
「……んっ……」
もっと、欲しいと伝えたくて向き合った途端、樹の裸体に抱きついた。見つめ合ってキスをする。深く深く、また離して、また重ねる。
「……いつ、き、さん……んん……」
離れた唇の間から洩れる嬌声に重ね、優志は甘く強請った。もっと、樹さんが欲しいと。
「優志……」
応えるように、樹は優志を押し倒すと再び中へと入ってくる。背中にひんやりと当たるタイルが冷たい、気持ちいいけど、少し痛い。
「あっ!んん……」
だけど、行為が深まってしまえばそんな些末な事は忘れてしまう。腕を伸ばし樹に抱き付きながら快楽をただただ受け入れた。
***
「眠そうだな」
「……ん、そんな事ないけど……」
風呂場で押し倒されそのまま二回続け様に抱かれた体は、気怠くて樹の言うように眠気も少しだけある。だけど、眠いなんて言えなくて、優志は樹に背を向け着替え始めた。
脱衣所で着替えを済ませ、先に出て行ったのは樹だった。
時計がないから分からないがここへ来たのは15時過ぎ頃だから、まだ17時位だろう。
樹の予定は分からないけど、このままずるずると部屋に居続けるのも悪い気がする。
仕事もあるだろうし……。
執筆の妨げになるのだけは嫌だ。そう思えば、優志の取れる行動は帰宅の一択しかなかった。
リビングへ戻ると、先に戻っていた樹がソファーへ手招いたので、長居しないようにと思うながらもその隣へと腰を下ろす。
「喉、乾いてるだろ」
「……ありがとう……」
冷蔵庫から用意してくれたのか、テーブルには麦茶の入ったグラスが2つ置かれていた。
先程食べた桃が乗っていた皿はないので、片してくれたようだ。
グラスを口まで運び、麦茶を飲む。意識していなかったが、喉が渇いていたようで半分程を一気に飲んでしまった。
「……はぁ」
無意識に溜息が零れる。これを飲んだら帰らなくては。ソファーに置き去りにしてあった自分の荷物に視線を向け、心の準備を始める。だが、その視線に気付いたのか樹が口を開いた。
「帰るのか今日、バイトか?」
「え……?ううん、今日は休み……」
優志は小さいながらも芸能事務所に所属はしている。だが、仕事と呼べるものはほどんどなく居酒屋でのバイトが主な収入源になっていた。
そのバイトは今日は休み、だからこうして樹の部屋に来たのだ。
「なら飯、食っていけよ、腹減ってないか?デリバリーでも頼もう」
「……え……?」
思いがけない誘いに吃驚した優志に、何でもない事のように樹が聞いてくる。
「予定あるのか?」
「な、ないけど……いいの?」
「いいの?とは?」
「……だって、お仕事、とか……その……オレがいても……」
「仕事の事は気にしなくていい、呼んだのはオレだ、お前の予定がないなら飯食っていけよ、ピザでも取るか」
「……うん……」
嬉しい。だけど、こんなにも嬉しいのはきっと自分だけだ。樹の気まぐれでここに居られるのだから。
樹は優志の心中など気付かず、テーブルの上に置いてある自分のスマホを取り上げ、ピザでいいよな、と画面を見ながら聞いてきた。
「うん」
勘違いしないようにしよう。これはたまたまだ。樹さんの気まぐれ。
きっとお腹が減っているから、ついでにオレと一緒に食べる気になってくれただけ。
そんなの分かっている。だけど、この喜びは隠せるものではない。
どれがいい?と言って樹が画面を見せて来る。季節のピザや一枚で四種類が食べられるピザ、定番のマルゲリータなど色々ある。
樹の指が画面を上下に滑る、その指を見ていたら横顔に視線を感じ顔を上げる。
「ピザ好きか?」
「ん?」
「なんか、嬉しそうな顔してるから」
「……う、ん、好きだけど……一人だと……あんまり食べる機会なくて……」
「そうか、まぁ、そうだな、オレも頼むのは久しぶりだ」
嬉しそうな顔。ピザが好きなのは好きだけど、嬉しいのは別にある。
ここに居られて、樹さんの隣に居られるのが嬉しいなんて言える訳ないから。
「沢山あって迷うね」
「好きなのを頼んでいいぞ」
「……うん」
上手く笑えているだうか。嬉しいのに何故だか泣きたい気持ちが溢れて来る。
演技はまだ上手くない、レッスンを受けて上達すればこんな時にも役立つだろうか。
優志はそんな事を考えながらピザを選んだ。
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