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第48話

「……樹さん……」 「じゃあさ、一人でしてる所、見せて」 「……え?」 「だから、優志の一人エッチ見せて」 「な、何言って……?!」  優志の顔が一気に赤くなる、まるで茹蛸のようだ。  何を言い出すかと思えば、だ。優志は首を振り、必死に「やだ」を繰り返した。  だが、それを樹が聞き入れる訳もなく、今日はもうこれで終わりにするか、などと言われてしまうと優志としては折れざるをえない。 「……な、なんで……」 「何でって、見たいんだよ、可愛い優志がオナニーしてるところ」  樹の「可愛い」はずるい。愛しそうに目を細め、耳に心地よい低音で「可愛い」なんて言われれば優志がどんなに嫌だと言っても、結局は陥落してしまうのだ。  不意に告げられる「可愛い」は相当な破壊力だと思う。ホント、ずるい……。  自分が可愛いなんて思っていないし、普段言われる事も少ないし、言われても受け入れる気にもならない。  でも、樹にだけは違う。可愛いと言われるのが、多分嬉しいのだ。  樹に言われる言葉だからこそ、特別に聞こえてしまうのだ。 「……樹さんのヘンタイ……」  反抗的な物言いにもただ苦笑いが返ってくるだけだ。優志は諦めの境地になり、仕方なく樹の望み通り公開自慰に踏み切った。 「……ふぅ……はぁ……」  手の中で立てる水音と荒く吐き出される自分の息遣いが煩い。目を閉じているから余計にそれらが、耳に付く。  目を開けてしまえば、きっと、もっとひどい。だって、見なくても分かる。視線に熱があればきっと自分は樹に見られただけで焼き尽くされてしまうだろう、見なくても分かるほどに、強く熱い視線を感じる。 「……あ!」  不意に乳首を爪弾かれ、驚いて目を開けてしまった。  だが、樹の顔が判別出来る前にがっつくようにキスをされ、そのまま乳首を押し潰すように弄られる。  急に加わった乳首への刺激に限界が近付く。見られている羞恥心が射精感をいつも以上に高めている。 「はぁ……も、う、いっちゃ……樹さん……」 「…自分でする方が感じるのか?随分と早いな……」 「ちが……だって……樹さんが……」 「オレが……?」 「見るから……」  ちゅっと唇を吸われ、そのまま頬や鼻頭にキスが降る。  キスが終わると、ずっと弄られていた乳首から樹の指が離れる。また視姦続行かと思いきや、樹の指はそのまま真下へ降りていった。 「あ……い、つきさん……」  いつの間に用意したのか、樹の手にはローションが握られていた。 「足、もう少し開いて」 「……」  言われるままに少し足を開き、樹がやりやすいようにと壁に寄りかかり重心をずらした。  樹は慣れた手付きで入口を撫で、解すようにして中へと指を進めた。 「……うう、む、り……も……そろそろぉ……」 「まだだ、もう少し待てよ」  ローションに塗れた指が中を擦る度に、奥へと導くように腰が揺れる。指が増え圧迫感は増したが、それ以上の快楽が優志を襲う。  良い所に指が当たり、腰が跳ねる。樹は見つけたとばかりに指を強く擦り付けてくる。 「んん、だめ、やぁ……樹さん……」  だめと言っても止めてくれない。優志は塞き止めるように自分のペニスを強く握りこんだ。そうでもしないと、直ぐにでもいってしまいそうなのだ。 「や、もぉ…樹さん……」 「もう、いきたい?」 「ん、も、いきたいぃ……」  潤んだ瞳で見上げると、樹は少しだけ困ったような表情で笑った、苦笑のような微笑だ。てっきり意地の悪そうな笑みでも浮かべていると思ったのに意外だ。 「樹さん……」  縋るように見つめれば、了解だとばかりに頷いてくれた。優志は達する事だけを考え、無心に己を扱いた。  絶頂は直ぐにやってきた、後孔を樹に弄られながらの自慰はいつもよりも強烈な快楽を優志に与えた。 「あぁ……!」  手の中に劣情を吐き出すと、ぐったりと放心したように壁に体重をかけ寄りかかった。 「樹さん……」 「ん?」 「も、いいでしょ……?」 「ん?」 「……樹さんも……脱いでよ……」  このまま終わりになるとは思えない、だったら早く樹と素肌を合わせたい。そう思った優志は樹のシャツに手を伸ばし、脱いで欲しいとボタンを外し始めた。 「分かったよ、脱ぐよ、優志」 「……うん……」 「優志」 「ん?なに?」  まだ倦怠感に体を支配されている優志は、ゆっくりと顔を上げ樹の顔を見つめた。  笑みは消えていたが、その顔はいつもにも増して真剣そうだ。珍しい、ベッドでこんな顔しないのに。 「……優志……」  だが、その表情は直ぐに見えなくなった。樹の胸の中に抱きしめられたからだ。  痛い位の抱擁、だけどもっと、と強請るように優志は樹の背中に腕を回し同じ力で抱きしめた。  言葉には出来ない想いをその腕に込めて。  大好き、そう心の中で愛を伝えた。

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