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11.朝の雪だるま
「だから言っただろう?」
俺が咎めるとしっぽを後ろ足の間に隠したようなしょぼくれた肇が、口を尖らす。
「あれは雪のせいじゃないです。腹を冷やしたからです」
「それ、雪を喰ったせいだろ?」
昨夜寝室に入った後、抱き合い求め合っていた真っ最中、肇の腹に異変が起きた。
雪の成分のせいか、腹を冷やしたせいかはわからないが、とにかく不首尾だったのだ。
俺は不機嫌を装っていた。半歩遅れて肇がついてくる。
今日は昨日の雪空が嘘のようにまぶしい晴天だった。街路樹の葉に残る雪が溶け、滴がきらきらと日射しを反射している。
ランドセルを背負った四人の子どもたちが、向こうで騒いでいた。
「まだ残ってたー!」
「やったー!」
昨日の雪だるまは溶けかけて、だいぶ形を変えていたけれど、本来の制作者たちにはそれはどうでもいいことだったようだ。
俺は肇を見た。肇も俺を見た。自然に笑顔になった。俺は肇の頭を撫でる。肇が得意そうににっこりとした。
が、次の瞬間肇の顔から笑みが消えた。
くしゅん!
俺は肇の顔をのぞき込んだ。
「お前、まさか風邪引いて――」
肇はぶんぶんと首を振った。
「大丈夫です! 体が丈夫なのだけが取り柄なんで。それに馬鹿は風邪引かないって言うでしょ。さ、遅刻しますよ」
そう言って俺の背中を押す。
(お前は馬鹿じゃないよ)
俺はまだはしゃいでいる小学生たちの横を通り過ぎながらそう思った。
翌日――
「熱を出した、実家で休養する」との連絡をよこして肇は会社を休んだ。
手袋なしでの雪だるまの修復は結果としてよかった。が、その後の風呂上がりの薄着&ベランダでの山盛り雪採集および実食は、大人としてやはりどうなんだ?
出社してきたらこう言ってやる。
「風邪を引いたんだから馬鹿ではなかったじゃないか。ただお前は限りなく子どもだった」と。
――了――
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