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第四話
「対してボクは、ほら。何とも可愛らしくて笑顔が素敵でしょう?」
「自分で言うか」
「言いますよ、どんどん言います。けれど僕自身が望んでそうなったか、と聞かれれば『否』と答えざる得ないんですよ」
「肉体的なコンプレックスは、如何に他者からの評価が高かろうと、自分自身ではマイナスイメージにしかならないわけだ」
「ですがね、そこはどう足掻いても、結果にすぐ直結する事は出来ないんです。例えば男らしい肉体を作る為に筋トレに励んでも、可愛らしいフェイスに筋肉モリモリマッチョマンのアンバランスが生まれてしまうわけですよ」
「ヤベェ、ちょっと見てみたい」
「それが嘘でないと分かるからこそ複雑です」
そこで一瞬会話が止まった。おそらく幸人の本題はそこでは無いのだろう。
「本題です」
「聞きたくはないが、ああ」
「そんな可愛いボクですが、クラスでどうやら『不良の先輩に誑かされている』と噂されているようなのです」
「は?」
「どうやらその不良は、学力は高いものの教師を泣かせるわ授業を停滞させるわ、酷い男なのだそうです。名前は瀬上彰と言うそうです」
「それはとてつもなく酷い噂だ。その瀬上彰と言う人物が可哀想だ」
「そうですよね、誑かしてはいないですもんね」
「そこもだけどそこじゃねぇ」
「で、どのように誑かされているかというと」
「……」
「白昼堂々屋上の給水塔天辺で、可愛らしい折笠幸人という一年生の、幼い躰を貪り喰ってるというではないですか」
「…………」
「あ、察してましたね」
「察せなかった方が良かったよ」
「ちなみに貪り食ってるは隠語で、まぁ早い話セックスですよね」
「言わんでいい」
「それでボクはどうすればいいでしょう。先ほど先輩が言った通り、他人の評価を気にしなければいいですか?」
「気にしろ」
この学校に来てから初めて他人の評価という物を気にするべきであると思った彰。
「でもどう否定するべきなのでしょう。『先輩は凄くいい匂いがしてついつい一緒に寝ちゃった』程度でいいんですかね」
「頼むから肝心の貪り食ってるを否定してくれよ」
「んー。そこは正直あんまり否定したくない事情がありまして」
「どうして。そこにやましい事が無いと否定をすれば、少なくとも最悪な事態は回避できる」
「いえね。そう誤解をしてくれている方が、ボクと先輩はラヴラヴだって皆に認知してもらえるじゃないですか」
「俺の敵は横にいた」
「なのでまずは先日から先輩が言っているように『先輩は不良じゃないよ』から否定しようかと」
「不良じゃない真面目な生徒は授業をサボって白昼堂々後輩の躰を貪り喰わんからこそ否定してほしいんだけど。そこさえ訂正してくれれば不良でもいいんだよ別に……っ」
本当にどうするべきか、彰は頭を抱えた。女性経験すらゼロなのに、いつの間にか後輩の男子を手籠めにしている極悪な先輩と言うイメージが一年生間で噂されていると言うのだから、悩みも生まれる。
「先輩はどうしてそんなに悩まれているのでしょう」
「逆にこの状況で悩むなという選択肢を提示できるお前が怖い」
「いえ、簡単に噂の悪い部分を否定できる言いわけならありますよ」
「何」
それは彰には思いつかなかった。一縷の希望をかけて幸人の目を見据えると、彼はにんまりと笑みを浮かべつつ――
先ほどまでのように、彰の身体を抱きしめた。
「おい」
「つまりですね、誑かしている、手籠めにしているという噂を解消できればいいんですよね」
「まぁ、そうだが」
「ならやっぱり話は簡単です。――ボク達が、付き合っちゃえばいいんです」
幸人の表情は、笑顔を絶やさない。
しかし、彰は違う。彼の表情からは、先ほどまでの不安や困惑が無くなる代わりに、呆然としていた。
「何を言っている」
「あれ、これじゃ解決になりませんか?」
「ならんだろう。そうする事によってのメリットが無いようにしか思えない」
「メリットだらけではありませんか? 今回先輩が誤解されている点は、あくまで後輩を手籠めにし、白昼堂々セックスに明け暮れているという部分です。しかしセックスの有無を如何に否定しようとも、証明する手立てはありません」
仮にあったとしても堂々と言いたい事ではありませんしね、と幸人は苦笑し、彰もその点に関しては同意する。
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