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Story.2
「ヒッ!やめっ__」
「·····うるせぇよ雑魚が」
あれから数日。
癒月は喧嘩も酒も煙草も辞めていなかった。
元から辞めるつもりなどなかったのだが、放課後になると思い出してしまう。今も他校の制服を着て絡んできた男共を蹴り倒しながら、思い出している。
吐き出したくなるような苛立ちを代わりにぶつけて、ボロボロになって倒れ込んでいる男共を置いて癒月はその場を後にした。
小野咲は、あれから何も変わっていない。普通な顔をして癒月を犯した教卓に立ち、授業をしている。恨めしげに睨んでみても気にしない。それが余計腹ただしかった。だから癒月は、どの授業にも出ずに屋上で過ごすと心に決めたのだ。真琴は日数取れたら行くねとちゃっかりしているのが実に真琴らしい。
グルグルと回る思考を立て直すように頭を振って、近場のコンビニに立ち寄ったときだった。
「·····なん、で」
「·····なんでって。ここ俺の家から一番近いんだよ」
どうしてこうも不運なのだろうか。どうしてコンビニで飯を買おうなんて考えたんだろうかと、数分前の自分を酷く恨みながら癒月は目の前に対峙する小野咲から後退りをしていた。早く出よう。そうしよう。でも、飯。俺も家の近くにこのコンビニしかねぇんだよ。腹減った。でもこいつが、あぁもう!
「なに百面相してんだ。さっさと選べよ」
「うるせぇ。お前こそさっさと帰れよ」
「先生だろクソガキ。お前待ってんだよ、早く選べ」
「は?待たねぇでいい」
「会計してやるから早くしろ」
は?何言ってんだこいつ、である。
目が点になった癒月を呆れたように見下ろした小野咲が、普段と違う完全な私服姿のまま癒月の頭をサラリと撫でてこう言った。
「一番高くて美味そうなの選べよ。菓子も食べたいなら好きに選べ。その代わり10分以内な」
「·····いや、何言ってんの」
「10分も知らねぇの」
「知ってるわボケ」
「じゃあ選べガキ」
相変わらず、な小野咲だけど。癒月は戸惑いながらも急かされてしまうから慌てて弁当を選んだ。一番高めの美味そうな肉。お菓子も飲み物も、デザートまで選ばされてしまった。嫌なにこの拷問。それが癒月の素直な感想である。コンビニを出た頃には、完全な虚無であった癒月とは裏腹に通常運転の小野咲が高そうな黒の普通車に乗り込み、窓を開けて癒月をこいこいと手招いていた。もの凄く行きたくなかったが従うしかないと癒月は嫌々そちらに足を動かしていく。
その姿があまりにも素直で、小野咲は少し困ったように眉を下げて近づいてきた癒月の頭をまたやんわりと撫でながらこう言った。
「この前は悪かった。でも、お前も少しは反省できただろ。もうしねぇから怖がんな」
「怖がってねぇし訴えるぞクソ教師」
「ははっ。いいぜ訴えて。そしたら教師じゃなくて、ただの俺としてお前の世話焼いてやるよ」
「はぁ?ふざけんなッ」
「じゃな。気をつけて帰れよ」
そう言えば、小野咲は今日まで出張だったっけ。
だったら今帰ってきたってことなのか。
「·····ふざけんな、クソ」
握り締めたビニール袋の中には、小野咲に買ってもらった弁当とお菓子とジュースにデザートが入っている。一人ならこんなに買わない。弁当じゃなくて、おにぎりとかパンで終わるのに。今日は小野咲に急かされて言われるがままに選んでしまっただけ。
それだけなのに、な。
その日の夕食は妙にあったかくて美味かった。
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