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第3話

 会社の非常階段で煙草の煙を吐き出しながら、俺は澄み切った青い空を見上げていた。手にはスマホを握りしめている。来ない返事を、待ち続けて三日が過ぎた。 「……くるはず、ない、か」  期待するだけ無駄なのかもしれない。  俺たちの関係なんて、薄っぺらいものだったんだ。  俺が付き合いたいって言ったから始まっただけの身体の関係……だったのだろう。俺が『終わり』と言えば、それまで。か細い糸のような関わりだった。  新はもともとノンケだ。女性の胸が好きで、恥ずかし気もなく、あの膨らみは神秘だとか言うヤツだった。人間の進化は女性にオッパイがあったから、と熱く語りだすようなオタクだ。  アホみたいに胸に執着する男でなければ、女なんて選り取りできる。いや……今となったらオッパイオタクでもモテる……のか。雑誌で取り上げられて、注目の研究者だもんな、あいつ。  高校のときから、文武両道で一目を置かれる男だった。バスケ部のエースで、テストはいつも学年にトップ。なんでもさらりとこなす、完璧主義者の男。  ずっと見てきた。興味本位で騒ぎ立てる女子なんかよりも、ずっと傍で応援して、見てきたんだ、俺は。  同窓会で再会して、大人になってからの親友の座を獲得して……さらには酔ったあいつをクリスマスイブに部屋に連れ込んで……。 「もう……本当に、終わりにしなきゃ、なんだな」  ごめん、と俺は呟いてスマホをスーツの胸ポケットにしまい込んだ。携帯灰皿の中に煙草をねじ込むと、深々とため息をついた。 『ねえ、私のおっぱい……触って。研究してほしい』  やめてくれ。もう……嫌なんだ。そういうのは。  脳裏を支配する女の甲高い声と、フッと笑う新の笑顔を忘れたい。学会への論文で忙しいと、ラインすら既読ならないはずの新なのに。  キャバに行く時間はあるんだ。  取引先の付き合いで行ったキャバクラに、新が偶然にも別の席で飲んでた。メンツはどうやら、大学の研究室だったみたいだけど。  研究内容で盛り上がっていたのを、ちらっと耳にした。新は俺に気付かずに、楽しそうに女子と話してて……。  ああ、やっぱりあいつは、女子がいいんじゃないか? って胸が痛くなった。俺のラインは既読スルーで、女がいる店では楽しそうにしてるのが、答えじゃないかって。 「新、知ってる? 今日はクリスマスイブ……別れてなきゃ、付き合って三年目の記念日のはず……だったんだよ」  左手につけていたペアリングを、俺は外すとポケットにしまった。  一息ついた俺は、仕事に戻ろうと顔をあげるとスマホが鳴りだした。  新かも? と期待して慌ててスーツから取り出すが『志賀』と高校時代の友人からの着信だった。 「志賀? どうした? 今夜、飲みの席に誘うつもりでいるなら……行くけど?」 『ああ? ヤメロ、シングルの俺を憐れむような酒は誘わねえっての』 「なら良かった」  あからさまにホッとするような言い方をしたけど。本当は、断られて寂しかった。できるなら、今夜は一人で過ごしたくない。

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