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第4話

『てか。イベント時にお前を連れだしたら、元良に殺される』 「え? なんで元良が? やだな。ただの酒飲み友達なのに」 『お前のために、知らない振りしてっけど。もう何年も付き合ってるんだろ。元良からいつも惚気られててうざい』 「惚気……? なわけ……愚痴の間違いじゃ……」  志賀、何を言ってるんだ?  付き合ってるのを知っているってなんだ?  惚気って?  俺のために知らない振りをしていたってどういうこと?  スマホを握る手が震えた。自分が同性愛者だってことは、必死に隠してた。オープンしても、いいことなんてないから。気持ち悪いと友人がいなくなるだけだから。  高校や大学のときは女が好きなふりをしていた時期もあった……今は、いい出会いがないって呟く程度で十分誤魔化せるようになったけど。 『元良は隠してない。藤原との付き合いを。大学の研究室でも、製薬会社の研究所でも恋人のことはオープンに話してるぞ』 「……え?」 『ま、そこで。俺に上司と教授から首を絞められそうだからお前にお助け電話ってこと』 「はあ? 意味がわからない」 『三日前、お前が研究室当てに送ったメールくらいは覚えてるだろ』 「なんで知って……」 『うっかり見ちゃったから』 「スマホに電話しても出ないし。ラインしても既読にならないから……大学のメールに。で、それがなに?」 『論文のデータも、研究データも全て消して……姿も消した』 「なん、で?」  消した?  全てのデータとともに、姿も? 『わかりきったことだろ』 「わから、ない」 『ってことで、あとは藤原、お前に託す。新を見つけ出して、研究室でも研究所でもどっちでもいいから連絡させてくれ。このままじゃ、論文を落とすことになるし、職も失う。じゃ、頼んだ』 「おい、頼んだって……」  よろしくという言葉を最後に、志賀に電話を切られてしまった。  論文のデータも、研究のデータも消した? そんなわけない。夏ごろからずっと、論文を出すんだって目を輝かせていた。だから、夏休みの旅行だって我慢したんだ。  九月に入ってからはもう……デートなんてしなくて、ただセックスするだけのために会っていたようなものだ。  新が俺のアパートに来て、エッチしてすぐに大学に戻るって感じで。 「どういうこと?」  スマホを握りしめたまま、俺は身体が固まってしまった。

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