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第8話
なんでこうなった?
シングルベッドでうつ伏せになっている俺は、薄暗い部屋をぼんやりと眺めていた。腰に力が入らない。痛いのか、重いのか……わからない。さらに後ろの孔も腫れて、ヒリヒリする。乳首も、だ。首も噛まれた。
決死の覚悟でノンケだった新との交際にピリオドを打とうとしたのに。男よりも、女のほうが好きななはずの新が……怒って泣いて、「好き」を連呼してるんだ?
おかしいだろ?
ここ半年は、エッチしかしてないんだぞ、俺たちは。
ラインしても既読にすらならない。忙しいのかと、こっちが身を引いていれば、キャバ嬢の女と楽しそうに話して、胸を触って……。
そんな姿を見せられたら、俺じゃなくても別れを決意するんじゃないのか?
痛いくらいに握りしめているメモリースティックに視点を合わせる。
「……いらないってなんだ? 好きにしていいって?」
どういうこと?
大事なデータなんだろ?
俺の隣ですやすやと寝息をたてて、気持ち良さげに寝ている新はまるで小さい子供みたいだ。
「あ、志賀に連絡しなくちゃ」
とりあえず、新の生存確認はしたって言っとかないと。上司か教授に連絡ってのは、新が起きないとどうにもらないし、な。
ベッドから出るなり、べちゃっと座り込んでしまう。腰が立たないとか……経験するとは思わなかった。ははっと乾いた笑いを浮かべて、俺は赤ちゃんのようにハイハイをして玄関へと突き進んだ。
脱ぎ散らかされた服がまだ、玄関で丸まっている。上着のポケットからスマホを取り出すと、履歴から志賀に電話した。
廊下に座ったまま、小さく息を吐く。
ベッドから見える新の足を見て、俺の胸は空しくなった。
『見つかったか?』
「……ん。今は寝てる」
『連絡させた?』
「まだ」
『……なんで。二人ともマジキレ中だからさあ』
「起きたら話すから。もう少し……」
「誰と話してるの?」
寝ているはずの新の声に、俺はびくと肩が跳ね上がった。低くてすごく怖い声だった。
『え? 今の……もしかして、あいつの声? めっちゃ低くね?』
電話の向こうで聞いている志賀ですらも、驚いている様だ。
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