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第9話

「志賀と……」 「起きたら話すってなにを?」 「だから……」 「志賀と付き合ってる、とでもいうの? だから別れたいって?」 『はああ?』  俺が返事をする間に、電話の向こうで志賀の雄たけびが聞こえた。 『やめろって。元良に殺されるようなことするかよ!』 「違う。志賀が新を探してるから、連絡しただけ。お前が姿を消したって、教授と上司が騒いでるんだって。連絡いれるように話してくれって頼まれたから」 「じゃあ、なんで……」 「話すから、ちょっと待って……ってことだから、志賀、新と一緒にいるから」 『わかった』  俺は電話を切ると、スマホを床に置いた。 「『別れる』って言ったのは、新の気持ちがもう俺にはないって思ったから」 「そんなわけ……!」 「スマホにメールしても、ラインしても……電話をしても。全く通じない。なのに、時々きて、セックスだけして帰る。愛されてるって思う? 最初は忙しいのかもって思おうって努力したよ。新の大事な時期なんだって。でも、キャバクラで見かけたら、疑うしか……ないだろ? ああ、やっぱり新は女が好きなんだって。おっぱいオタクで、女の胸が大好きで、俺との付き合いは後悔しかないんだって。だから連絡もないし、既読スルーされるんだって。クリスマスが近づいてきてるのに、デートも誘いもないし。もう駄目かもって。だから大学のメールアドレスに送ったんだ、別れるって」 「……ごめん。スマホは……今、教授に取り上げられてるんだ。論文そっちのけで、クリスマスのデートの検索ばっかやってて。大事な時期に馬鹿か!って。クリスマスまでは必ず、スマホを返してもらおうって思って必死にやってた。キャバに関しては、教授の付き合いで」 「胸を触ってた」 「あれは……触れって言ってくるし。周りの目もあったから、拒否るわけにはいかなくて。でもあんな胸、二度とごめんだ。偽物なんだよ。見ただけでわかる。二回整形して、胸の形を変えてる。本来あるべき胸の大事な機能を無視してる」  やっぱり、新はおっぱいオタクだ。見ただけで整形してるってわかるなんて。完全に、プロ目線だ。 「……これ、返すよ」  俺はフッと笑うと、メモリースティックを新に向けて差し出した。  新はいらないと言わんばかりに首を横に振った。 「大事なものだろ?」 「もっと大事なものがある。その人を傷つけてまで続けたいとは思わない」 「俺が悪かった。もう……別れるなんて言わないから」 「なら、どうして……こっちに来てくれないの?」 「……それは……新が無茶苦茶に抱いて、俺の腰がバカになったから。動けないんだ。新がベッドまで運んでよ」  俺は両手を広げると、新が嬉しそうにベットから出てきた。お姫様抱っこをして、ベッドまで連れて行ってくれると、甘いキスがおりてくる。 「新がこんなに性欲が強いなんて知らなかった」 「壊したくなくて。大事だから。本当は毎日したいくらい。でも……藤原にも仕事あるし。僕も夢中になりすぎて、論文とか研究とかおざなりになるのが怖かった。『別れる』って文字を見たら、なんかもう……抱えてるもの全てがどうでもよくなって。今までの実績とか、研究成果とか……いらないって。論文を落としてもいいやって思った。教授に怒られようが、世間になんと言われようが、僕が選びたいのは藤原との生活であって、研究じゃない。それで身を滅ぼすことになってもいいやって」 「俺こそ、ごめん。極論に辿り着く前にきちんと新に話していれば良かった。はなっから、新はノンケだから俺とは違う。すぐに嫌になって逃げだすってどこかで思ってたから」  新がぎゅうっと俺を抱きしめてくれた。額にキスを落とすと「ノンケだと思われてるって知ってた」と答えた。 「え? ノンケじゃないの?」 「恥ずかしくて言えなかったけど……実は、女に欲情したことは一度もなくて。高校のときもそういう雰囲気になっても、勃起しなかったんだ。でも、藤原の水着姿を見て、体育の時間に勃起したときは焦った」 「……は? え?」 「僕にとって、女性の胸は研究対象でしかない。性的にはいっさい興奮しないんだ。でも、藤原は何をしてても僕に刺激しか与えないんだ。バレないように必死に抑え込んでた」 「しらな……」 「当たり前! 知られないように振舞ってたんだから」  鼻先を赤くして恥ずかしそうにそっぽを向く新が可愛いと思った。  なんだ……俺たちは、高校のころから両想いだったんだ。遠回り……しちゃったんだな。  俺は新と手を繋ぎ合うと、お互いにクスクスと笑い合った。

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