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第12話
再び視界が開けた時は、青年の寝室の寝台の中でした。
傍を見ると、青年が眠っています。わたくしは、行為が終わったあとに寝こけていた自分が恥ずかしく、どうにか身体を起こそうとしましたが、彼の腕が巻きついていて、身じろぎすると振動が伝わり、そのせいで彼を起こしてしまう失態をしでかしてしまいました。
「あ、申し訳……」
「起きたか」
寝ぼけ眼を半分だけ開いて、彼はわたくしの存在を確認すると、言いました。寝癖で後頭部が跳ね上がっておりましたが、それを撫で付ける様子もなく、青年はわたくしに少し笑んだようでございました。
「突然眠ってしまうから、殺してしまったかと思った」
「それは……申し訳ござ……」
いません、と発音する前に、青年は人差し指を、わたくしの吸われ続けたせいで少し腫れた唇へ付け、言いました。
「謝るな」
「でも……」
なぜ、この方はわたくしのたび重なる失態を許し続けてくださるのでしょうか。わたくしは、思わず先の主人の例を引いて、正しい主人の在り方というものを言い含めそうになりましたが、彼はすべてお見通しだったようでした。
「こういうことは、他人と比べるものではない。家には家の、他所には他所の、流儀があるのだ。お前は知らないだろうが……」
その言葉に、わたくしははっとなり、自分の浅はかさを恥じました。わたくしが俯くと、青年はそっと髪をくしけずってくださいながら、言いました。
「お前が知らないことはたくさんある。昨夜のことにしてもそうだ。俺は……仕方なく抱いたなどと言うつもりはない。意志が介在したことは確かだ。そして俺は、お前の無知を利用した。……だからお前は、後々、俺を恨む権利がある。覚えておきなさい。よしんば、俺が、きみに恋心を抱いているとしても、きみが俺に恋をする必要はないのだ」
「そんなこと……」
びっくりしたわたくしは、下肢にまだあの逞しいものが入っている感覚がして、思わず身を捩りました。わたくしを抱く意志が彼にあったように、抱かれたがったわたくしの意志も確かにそこには介在していたと存じます。むしろ彼は、わたくしの淫らな欲情の発露として振舞ってくださっただけなのではないでしょうか。わたくしの方こそ、彼を利用したのかも知れません。そう思うと胸が潰れそうな罪悪感に、次第に気力も萎えてまいりました。
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