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第11話(*)

「動いた方がいいのだろうが、つらくないか」  青年はまだそんなことを申しておりました。わたくしは半分、蕩けておりましたせいで、物事の善悪の判別がつかなくなっていたようでした。今考えてもあさましいことに、あろうことか、彼に対してねだりがましい口答えをしてしまったようです。 「お願……い、です……動い、て……」  そうしてガリ、と背中をかいた傷を、あとになって見せられた時は、消えてしまいたい想いにかられたものですが、その時はこれ以上焦らされたら死んでしまうと心の底から思ったものでした。 「……わかった。俺も、その方がいい」  言うなり、わたくしの願いは、さらに激しい形でかなえられたのでした。  青年はわたくしの唇に唇を重ね、甘やかに吸い上げながら、最初に腰を引きました。そのあとで、まるで柔肉を薙ぐように、さらに奥へと抉るように突き入れてまいりました。わたくしは、とても衝撃を受け止められる状態ではなく、おそらく卑猥な注文を、主人に対してねだったようでした。ようだ、と申し上げるのは、交合のあとで互いの見解を突き合わせてみたところ、わたくしの記憶からは、かなりの部分が抜け落ちていたからです。  突き入れ、引き出し、縛めをきつくされ、息も絶え絶えに、 「いきたい……っ」  と声に出したかはわかりませんが、何度か強く願ったことは憶えています。  しかし、わたくしが訴えても、青年にはまだ余裕があるようで、奥へ、奥へ、さらに奥へとわたくしに甘やかな快楽を授け続けました。  そのまま意識が戻らないかも知れない、と思うほど乱れ切った時、ついに青年は一際強く腰を突き入れ、縛めを解いたのでした。 「っ……ぁ、あぁっ……!」  わたくしは恥ずかしい声を上げたまま、自身の腹の上に欲望を噴出させました。  刹那、青年もわたくしの中にたっぷりと射精したようでした。男性然とした唸り声をかすかに喉の奥で噛み殺しながら、その時、初めて彼がわたくしの中に大量の精液を注いでくださったことは、今も強く記憶に残っております。  しばらくの間は、息も絶え絶えに、瞼の裏に踊る白い光を追うこともできずにおりました。わたくしはもとより、彼も精魂を削ったらしく、強くわたくしをかき抱いて、互いに無言のまま、繋がりだけはドクドクと痙攣を繰り返しておりました。 「ん……」  わたくしが呻くと、それを呼び水のように、青年は抱いていた身体を離しました。  申し訳ございません、と声に出すつもりでしたが、最中に上げた嬌声のせいで、声帯が上手く機能いたしませんでした。彼は、そんなわたくしの汗ばんだ髪を、最中と同じようにくしけずってくださいました。それで、彼が特に気持ちを害していないことを悟ったわたくしは、やっと息を吐き出し、目を閉じたのでした。  その夜のことはそれきり、わからなくなってしまいました。

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