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第2話

 話を今に戻しますと、皇居を横に睨みながらしばらく走った車は、数回、角を折れたあと、桜並木の切れたあたりから続くお屋敷街の一角の、とみに広い敷地を誇る煉瓦造りの豪邸の車寄せに停車いたしました。降りるよう言われ、小さな風呂敷包みを抱えたわたくしが夏目様の後をついていくと、やがて書斎と思われる部屋へ通されました。  天井まで続く書架には、様々な書物が並んでおり、外国語で書かれたものも半分ぐらいありました。ぽつんとひとりになり、おそるおそる周囲を見回しながら、奥へと歩を進めると、やがて後ろから凛とした青年の声がいたしました。 「きみか。よくきてくれた。昼は済んだか?」  驚いて振り返ると、そこには夏目さまではなく、洋装姿の青年がおりました。黒い髪を短く刈り込み、切れ長の二重は清潔感を湛えており、引き結ばれた唇は男らしく、通った鼻筋の美しさは形容し難いものがございました。  青年はわたくしを見て二度、瞬きをしたあとで、 「腹は減っていないか?」  と尋ねました。  わたくしより少し年上に見えましたが、溌溂としたお顔がとてもきれいで、見惚れてしまうほどでした。  しかし、彼とは先日、わたくしが花魁の部屋への案内役をしておりました折に、いきなり顎を掴まれ、まじまじと顔を見られて以来の邂逅でございました。  生理的な問題を申し上げるのは気が引けたわたくしが、おずおずと首を振ると、それを一瞥なさった彼は、わたくしの嘘をとっくに承知したような表情で、 「まだならこい」  と指先でわたくしを招き寄せました。

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