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第4話
昼間から入浴することをお許しいただき、大変恐縮いたしましたが、いい湯加減でした。
青年は、さっぱりと浴衣姿で出てきたわたくしを、大層じろじろと眺めておいででした。そのような遠慮のない視線には覚えがございましたので、わたくしを伴い、ざっと屋敷の中を案内され、最後に部屋へと連れてこられた時には、もう決心はついておりました。
「ここがきみの部屋だ。突然のことで疲れたろう。今日はゆっくりするといい」
綺麗に整えられた屋根裏部屋に案内されたわたくしは驚きました。調度や部屋の機能からして、ここは執事部屋か、それに類する部屋であることは、察しがついたからです。
そのことを青年に伝えると、
「うちに執事はいない。秘書は何人かいるが、皆通いだ。きみには仕事を覚えてもらい、住んでもらいたいと思っている。嫌か?」
とお尋ねになりました。
「とんでもございません。わたくしのような者には、身に余ることです」
「そうか。ここしか空きがなくてな。俺は仕事に戻るから、あとはくつろぐといい」
「あの……っ」
思い切ってその背中に声をかけますと、彼は振り返ってくださいました。
「何だ?」
「お仕事は、何時頃にお済みになりますか?」
「そうだな。九時には終わらせるつもりだが」
「では、そのあとで、お部屋にお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「俺の部屋へ?」
「こちらへお運びいただくのは申し訳ありませんので、お伺いいたしいます。不調法ではございますが、どうぞ宜しくお願いいたします」
わたくしは赤面する頬を隠すように頭を下げ、どうにかこの場所に長く置いていただけるように努力しよう、と思いました。
青年は、少し不可解な表情をいたしましたが、深々と下げたわたくしの髪をそっと撫で、
「何も考えず、休むといい」
と言い、出て行かれました。
こうして、わたくしは再び主人を持つ身分となったのでした。
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