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第6話(*)
「なあ……、ここでお前を抱いたら、俺は人でなしになってしまう気がするよ」
わたくしの失敗を咎めないばかりか、ゆっくりと襟足まで伸びたわたくしの髪を撫でてくださいます。あまりに優しくされたので、ついわたくしは主従の約束を忘れ、命じられもしないのに口を開いてしまいました。
「なぜ、そんなことをお思いになるのですか?」
「なぜだろう。お前があまりに放埓で淫らだから、かな」
「わたくしは……淫らでしょうか」
「……少なくとも、うちの使用人はこんなことはしない」
その言葉にわたくしは、かつてないほど頬を赤く染めました。確かに前のお屋敷でも、こういった行為をさせられるのは、いつも決まった使用人だけのようでした。それではわたくしは、望まれもしないのに新しい主人に醜態を晒したことになってしまいます。青ざめ、どう詫びればよいのかわからぬまま、わたくしは青年の前で小さくなり震えるよりほかありませんでした。
「申し訳……ございません……」
「謝ることはない。だが、もう心から望んでいない相手に身を任せてはいけないよ」
青年はわたくしを宥めるように、優しく言ってくださいましたが、ありがたいと思う一方で、どうしてもそれだけではおさまらない問題がわたくしの側にございました。
わたくしがもぞついていると、恥ずかしがっているせいだと思われたのでしょう。彼はやにわに、わたくしの二の腕を掴んで長椅子に引っ張り上げようとなさいました。その時にわたくしが抵抗を示したのは、決して彼への反抗心ゆえでないことだけは、わかっていただきとうございます。わたくしは、これから起こることに対して、少なからず期待があったのです。しかし、それは本来、あってはならぬことでした。
「ぁ……っ」
「?」
「な、何でも……」
わたくしは急いで着物の合わせに手をやり、下肢が乱れるのを防いだつもりでした。しかし、引っ張り上げられた先が長椅子に座る彼の膝の上であったために、欲情の印が彼の脇腹に触れてしまったのでした。
「ぁ……!」
「きみは……」
息を呑んだ青年に、わたくしは唇を噛んで俯くことしかできませんでした。あさましいわたくしは、これから及ぶであろう行為を想像して、発情していたのでございます。それを彼に見咎められることは、死んでしまうかと思うほどの羞恥を伴うことでした。しかし、彼はそんなわたくしを放ってはおかず、長椅子に押し倒すと、わたくしの膝を左右にぐい、と開かせたのでした。
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