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第9話(*)

 あの骨ばった長く美しい指に、あさましい行為を強いているのだと思うと、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが、両方、湧いてきました。乱れた息を吐き出したわたくしに、彼はこう言いました。 「きみをこんなにした人を、俺は許すことができない。けれど、きみがこんな風に乱れるのが、嬉しくてたまらない。俺は、本当にどうかしている」  そうして身体を捩った青年の中心が、わたくしの浴衣の帯に引っかかり、しなったのを感じたその時、泣きたくなるような切なさが去来いたしました。この名もよく知らぬ青年が、わたくしの身体の乱れるさまを見ても、なお欲情してくださることが、嬉しかったのでございます。今まで、わたくしは、どれほど奉仕いたしましても、ご満足いただけないままでございました。そんな不完全なわたくしを、これほど大切に扱ってくださる方に巡り逢えたのは、幸甚としか言いようがありません。 「あ……」  思わず声が出てしまい、冷やりとしましたが、彼はそのまま愛撫を続けてくださいました。  どころか、わたくしに、 「よければ言いなさい」  と囁き、乳首や前を弄りながら、後蕾を徐々に解してくださいました。  はじめは男の生理に逆行して中へと潜り込む指に、拒否反応としては些細なものかも知れませんが、苦しさを感じました。長い間、していないせいでしたが、彼はそのようなわたくしの我が儘と言っていい事情にも、よく気を配ってくださいました。声を出しても怒られなかったことに、どこか寂しさに似た意外性を感じていられたのは、彼の指がわたくしの弱点を暴くまでのことでした。 「……っ、……っ、っ」  わたくしがあまりにその刺激の眩しさに、思わず背を仰け反らせた時でした。 「……いい。声に出しなさい」  そう、拳をぎゅっと握ったわたくしの手首を掴んで、そう言ってくださいました。  それでもわたくしは頑固に歯を食い縛って抗いましたが、やがてそれも、形だけの反抗となり果てました。いつしか指は二本に増やされ、わたくしの弱いところをリズミカルに押していきます。その場所を押されると、どうしても声が出てしまい、身体が開いて、力が入らなくなってしまうのを、彼はとうに知っているようでした。 「……ぁ、ぁ、いく……っ!」  刺激の眩さに思わず口走ってしまうと、ぎゅう、と今まで柔らかく扱かれていた根元を押さえられてしまい、わたくしは半狂乱になってしまいました。未だかつてこれほどまでにわたくしに我慢を強いた事柄は思いつかないほどの、きついお仕置きよりも、何よりも、きついものでした。  声にならない声を上げ、わたくしは思わず彼に逆らうようにして、その戒めを解こうといたしたようでございます。というのも、この段になると身体が勝手に動いてしまい、それを認識することも制御することも、難しくなってきたのでございます。 「ゃ、ぁ……っ、ゃ……!」  もう、こうなっては、早く達したいという考えばかりが先立ち、少しも相手の事情になどかまっていられなくなってしまいました。そうこうするうちに、指はいつしか三本に増え、わたくしが汗みずくになり身体を淫らにくねらせていると、鼻先に青年の鼻が当たり、一瞬だけ悦楽への欲求が削がれたようでした。 「もう……、入れさせてくれ」  彼は言うなり、わたくしの唇にまた接吻をくださいました。

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