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第2話

 電話が終わったのを見計らって、同衾していた男が目を擦りながら晴翔に抱きついた。 「なんだか大変そうな感じだね?」  情事が終わった後にイビキをかいていたから疲れて眠ってしまったと思っていたが、起こしてしまったのか。 とは言っても、名前も知らない相手に罪悪感など覚えなかった。  ついでに言えば、名前も知らない仲なのだ。自分の後ろめたいバックグラウンドを知られて、困るようなことは何もない。 「大変なのは俺じゃなくて俺の兄ね。といっても、異母兄弟なんだけどさ。なんか病気に罹っちゃったらしいよ。詳しいことは良く分かんないけどさ」 「ふーん。……骨髄とか言ってたから、白血病とかかな?」 「へぇ、詳しいね。お医者さんだったりする? でも、挿れるとき、お注射しまーす♡ とか言ってくれなかったね?」  晴翔は上目遣いに甘えてみた。 「残念だけど医者じゃないよ?」 「じゃあ、ナース? 」 「うーん、どうだろうね。……さっきから興味津々だけど、もしかしてそういうプレイが好きだったりした?」  名前も知らない”誰かさん”は含みを持たせて笑った。  それには答えず、晴翔は彼の身体を撫で回す。  がっしりとした体温に触れていると安心する。 「そういえばこういう風に不特定多数の人とセックスしてたら献血できないって聞くけど、骨髄提供もできるの?」 「骨髄も献血と一緒の基準だったと思うけど。……ねえねえ、随分甘えてくるけどまたヤりたいの?」 「うん、そう。ねえ、ダメ?」   晴翔のおねだりに気を良くしたのか、しょうがないな、と男は満足気に笑った。  晴翔は男に甘えるのも、男を誑かすのも得意だった。  名前もよく知らない誰かさんは晴翔の口内に舌を侵入させてきた。それから、男の手は晴翔の下肢をまさぐり始める。脊髄反射のような当たり前の反応と快感が目の前を包んでいく。息も詰まって、ぐちゃぐちゃな思考が飛んでいった。  晴翔はセックスが好きだ。性に溺れている。  自分でも狂っていると自覚するくらいには。  はじめてそういうふしだらな行為を覚えたのは小学生の時だった。  夏休みに一人で公園やら図書館を渡り歩いていたところを、そういう趣味のお兄さんに捕まって悪い遊びを仕込まれてしまった。とは言うものの、裸にさせられたり、お兄さんのイチモツを舐めたり、舐められたり、後は指を突っ込まれたりしたくらいなので、晴翔のバックバージンが失われたのは中学生時代にまで遡る。  初めての相手は美術教師だった。  そういう匂いを嗅ぎ取られたのか。同類だと思われたらしく、美術教師は晴翔を優しく誑し込んだ。性的な行為に慣れていることに違和感を持たれはしたものの、「小学生の時に近所のお兄さんにいたずらされたんです」と涙目で言えば、美術教師は晴翔に同情し、最大限に甘えさせた。  彼をずっと繋ぎとめておけば、晴翔がこんなビッチになることはなかったはずだが、高校生になった彼は、自分の容姿の価値に気づき、あえなく美術教師と破局した。  年齢を誤魔化して、ウリをやってみたりしたけれど説教するジジイの多さに辟易し、誰とでもヤるのは止めて、今はバイト感覚で自分が抱かれたいと思う相手とだけウリをしてセックスライフを楽しんでいる。  潔癖な人間が聞けば顔を青くするかもしれない男遍歴だが、こうなるのは仕方がないと晴翔は諦めていた。  何故なら、晴翔を生んだのは夫が居るにも関わらず不倫したビッチで、さっきの電話の相手である種馬もまた奥さんが居るにも関わらず不倫しやがったサノバビッチなのだから。  もともとがビッチのサラブレッドなのだから、セックスが好きなのもしょうがない。  これが晴翔の理論だった。

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