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第7話
徹は知っていた。晴翔の知られたくないところまで。
晴翔にあった余裕はもうなくなっていた。
「俺たち、半分だけしか血の繋がりないのに顔とか声とかすげえ似てるよな。今はできるだけお前に似ないように身体鍛えて雰囲気も変えるようにしてるから、もうそんなに似てないと思うけど。でも、子供の頃に一度だけ会ったとき本当に自分そっくりで、ドッペルゲンガーかと思ってすげえ怖かったし。だからさ、兄弟が居ること知らない奴からしたら間違えられても仕方がないだろ」
話は要領を得ず、何が言いたいのかよく分からなかった。
そんな晴翔の様子を気にも留めず、徹は話を進める。
「そういうわけで売春してるような犯罪者とは一緒に生活したくない。どうせ俺はもうすぐ出ていくんだから、ここに住みたかったら俺が出て行ってからにしろよ」
「出ていくんだ。一応、病人なんでしょ? 再発とか怖くないの?」
「そうなったって、お前の骨髄なんて要らない。お前の骨髄を俺の身体の中にいれて生きるくらいなら、死んだ方がマシだよ。お前が親父の浮気相手の子っていうのを抜きにしても、俺はお前が嫌いなんだ。大嫌いだ。……我慢してたけど、やっぱり顔を見ただけで腸が煮えくり返りそうになる」
晴翔には自分がこんなにも憎まれる理由が分からなかった。
自分の生が疎まれるものだったということは知っている。堕ろせなかったから生まれただけの命。生まれたから仕方がなく育てられて。死なない程度に水を与えられた。それは飽きっぽい子供のペットのような扱われ方だった。存在を無視された命。
自分はそれだけの存在では無かったのか。
こんなにも誰かに憎まれるとは思いもしなかった。
「だから何? 確かに俺は色々遊んでたけど、だけどあんたに迷惑はかけてないでしょ?」
自分の性癖が原因で、誰かを傷つけた覚えはまったく無い。
徹は、はぁ、と深く大きな溜め息を吐いてから、声を上げた。
「お前のせいで、俺はレイプされたんだよ!」
顔が強張った。
何を言っているのか一瞬分からなかった。
彼の言葉を理解するのが遅れたが、そんな晴翔に構わずに徹は言葉を続ける。
「売春してるとき、写真とか動画とか撮らせてただろ。それ、ネットで探せば簡単に見つかるって、お前知ってる?」
撮られた場合の危険性については十分わかっている。
今はそんなことは絶対にさせないけれど、どうにでもなれとなげやりな時期があったことは否定できない。心臓の動悸が激しくなる。
「それで勘違いされて……反応とかでおかしいって気づいたみたいだけど、押し倒されたあとで人違いだって気づいても遅いよな。んで、それで終わり。なあ、お前、なんであんなこと好きなの? 気持ちわりぃよ。本当に。気持ちわりぃ」
「ごめん……」
「お前が謝っても、何がどうなるの? 俺の記憶が消える訳? そりゃ、お前は好き者だから俺の気持ちなんて、分かんないだろうけど! 羽交い締めにされて、動けなくされて、無理やり尻に指突っ込まれて……何回も何回も! ……思い出すだけでも吐き気がする。あんなのが好きだなんて、お前本当おかしいよ。狂ってるよ」
それは知っていた。
だけど、改めて他者から指摘されると笑えてきた。
「おかしいのかもね」
晴翔は自嘲する。
「気持ち悪い男に無理やり裸にされて、おちんちん舐めてって言われて、色んなところ舐められて、尻に変なものを入れられたら、そりゃあおかしくもなるよね」
想定外の出来事に、思考と感情が乖離し始める。
何かが壊れたのか、爆発したのか。
放心状態の徹を気にせず、晴翔は感情のままに口を走らせた。
「『気持ちいい?』って訊かれて、そんな訳ないのに気持ちいいって答えなきゃいけない俺の気持ちが分かる? もっとして、って催促しなきゃいけない俺の気持ちが分かる?
全身舐められて、写真だっていっぱい撮られて。気持ち悪かったけど、頑張ったら褒めてくれるんだ。『晴ちゃん、ごっくんできたね』って。おいしいものだって、おもちゃだって買ってくれて。
クラスの女子から嫌われているような教師とでもセックスできたよ。
愛しているフリするのは簡単だからね。
こいつがすごい変態嗜好の持ち主でね、美術教師なんだけど、色んな奴とセックスさせるんだ。寝取られ願望ってやつなのかな? もちろん女じゃなくて男だけだけど。
それをビデオに撮って、デッサンの勉強にするんだって!
中学生に初対面の男とセックスさせるんだぜ?
狂ってるよね。俺の精子が塗られたイカ臭い絵をプレゼントされたこともあったし。まあ、そいつはセックスだけはうまかったよ。後ろだけでイくっていうのを覚えたのもこいつのお陰だし、あと、まあ、芸術の楽しさについても教えてくれたかな」
晴翔は笑いながら言った。
「レイプもね、されたことあるよ。あんたとお揃いだね。上手かったら気持ちいいんだけど、下手だったら損した気分になるよね。輪姦されたこともある。逆らうと痛いことされそうだからね、そういうのは逆らわない方がいいんだよ。相手の好きなようにさせてあげるのが一番。そうしたら、優しくなってすごく気持よくしてくれるんだ」
晴翔は途轍もない顔をしていた。
徹も晴翔に倣うかのように、顔面が蒼白していた。
その顔を見ていると、不思議なことに親近感が沸き上がった。
(かわいそう。レイプされて今まで辛かったんだね)
晴翔の中にそんな感情が沸き上がる。
「俺が気持ちよくしてあげるよ?」
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